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東証提出文書改竄のオリンパスを襲う「400億円訴訟」
笹宏行社長は目を合わせずに「広報を通して」。出資者たちへの説明に頭を悩ます日々が続く(3月24日)

取材・文:山口義正(ジャーナリスト)

「過去に例のない粉飾で、市場の透明性や公平性を著しく損ねた」「社会に与えた影響は大きく、酌量の余地はない」

 3月26日午前、東京地裁104号法廷で、企業買収を装って1200億円もの粉飾決算を続けてきた「オリンパス事件」の論告求刑が始まった。検察側は論告に45分ほど費やした後、法人としてのオリンパスに罰金10億円、元会長の菊川剛被告(72)に懲役5年、元監査役の山田秀雄被告(68)に同4年6月、元副社長の森久志被告(55)には同4年を求刑した。厳しい内容だ。しかし4月23日の最終弁論で結審すれば、オリンパスの誰もが忘れたいこの経済事件はひとつの区切りを迎える……はずだった。しかしここにきて耳を疑うような事態が浮上している。

 論告求刑の2日前、オリンパスの笹宏行社長(57)の自宅で直撃取材を敢行した。

「内部管理体制確認書に虚偽記載があったまま東証に提出したとの疑惑がある。トップとしての責任、また今後どう対処されていくのか、お伺いしたい」

「疑惑」とは、東証一部市場から外されたオリンパスが、特設注意市場からの脱却を目指して東京証券取引所に提出した内部管理体制確認書に改竄の跡があるというものだ。私が月刊誌『FACTA』(4月号)でスクープした内容だが、笹社長は、何を聞いても「広報を通して」の一点張りだった。

 スクープのきっかけは、2月に送られてきた匿名の内部告発状だった。前述の確認書を作成するにあたり、オリンパスは国内外の工場を監査しなければならなかったが、担当者のミスで海外の医療機器関連工場すべてで監査を行えなかった。しかし確認書提出の締め切りが迫っていたため監査を行ったことにし、すでに出来上がっていた確認書の日付を手書きで改竄し、提出した―というものだった。確認書は損失隠しの詫び状でもある。それに虚偽の内容を忍ばせるとは……。

 この問題を知りつつ東証に確認書を提出したのは、新宿本社と八王子市内にある事業所のプロジェクトメンバー、そして監査の伝令役だった部署の全員だという。組織ぐるみの改竄ではないか。告発状には監査内容について「N‐OIS」(内視鏡・オリンパス・インターナショナル・スタンダード……社内標準規格のこと)など、社内用語を用いて具体的かつ詳細に記されており、いい加減なものとは思えなかった。オリンパスの広報・IR室に質問状を送ったところ「そうした事実は確認できなかった」と回答した。

 告発者への取材を行った結果、監査の連絡を怠った社員のほか、質問状送付後に福島県の工場に急遽異動が決まった社員3人の姓名、これら以外に改竄に関与した社員が存在することなど、未公表の追加情報が次々と浮上した。

 こうしたなか、一番辛い思いをしているのは、笹社長本人かもしれない。役員の大半が退任した昨年、執行役員から社長に引っ張り上げられ、火中の栗を素手で拾う役回りを押しつけられた。一方で損失隠しの走狗となった部長クラスの社員は起訴を免れ、「損失隠しの事実を知っていて加担したという証拠が出て来なかった」としてお咎めなし。菊川被告らに対して検察が厳しい求刑で臨んだのとは不釣り合いな寛典で済ませ、今も財務や人事・総務、経営企画など要のポジションを牛耳って〝黒いスクラム〟を組んでいる。

 しかし質問状を送り付けた後の彼らの狼狽ぶりは異様だった。やはり私のもとに、「新宿本社や八王子の事業所では緊急会議が招集され、役員や幹部社員が姿を消したと思ったら会議室に籠っていた」「日付の改竄を行った部署には厳重な箝口令が敷かれている」との情報が複数の告発者から寄せられた。

 今回の告発状も笹社長の直接的な関与や責任を告発するような内容ではない。その矛先はむしろ、損失隠しに深く関与しながら、今もオリンパスに居座る〝戦犯社員〟たちに向けられている。「オリンパスは立て直しの最後のチャンスを失った」として、社員たちから内部告発が相次いでいるのはそのためだ。

FBIが言い残した言葉

 昨年末、同社の損失隠しに関わった台湾出身の元銀行幹部がロサンゼルスで米連邦捜査局(FBI)に逮捕された。それを受けて今年2月上旬にはFBIの捜査官が来日し、関係者に事情聴取した。逮捕された元銀行幹部は損失隠しに提供された海外ファンドを管理していたが、ファンドのオーナーは別の日本人で、FBIはマネーロンダリングの容疑でその人物の情報収集に躍起になっているそうだ。警視庁にも事前の連絡がない事情聴取だったが、その後、FBIは香港やシンガポールで収集した情報を持ち寄って4日間にわたる報告会を開いた。私はFBIが持ち帰った資料のコピーを入手したのだが、それによると米国ではオリンパス事件の捜査は終結どころか、これから網を広げて第二段階に入るところなのだ。

 気になるのは、捜査関係者が「米国ではオリンパスに対し、刑事訴訟で100億円、民事訴訟で300億円、計400億円の支払いを求める訴訟が起こされる」との見通しを伝えて帰ったことだ。すでに世界中の機関投資家が集まり、株価の下落で被った損失の賠償を求める訴訟が提起され、損害賠償請求額は判明分だけで270億円に達している。オリンパスが支払いを求められる損害賠償金や罰金がさらに増えれば、その総額は最終的に1000億円近くに上っても不思議ではない。

 オリンパスの純資産額は第3四半期末時点で約919億円。ソニーから500億円の資本注入を受けはしたが、綱渡りが続く。

 新たに点ぜられた改竄疑惑のどす黒い染みは不信感となり、株主の間に静かに広がっている。筆頭株主になったソニーは、公式には「オリンパスとの関係は変わらない」として平静を保ちつつ、確認書の改竄問題について関係部署の間で情報を共有し、オリンパスに対しても情報や説明を求める構えだからだ。

 東証は私に「(東証一部に復帰させるかどうかの)審査内容は公開しない」と答えているから見て見ぬふりをするのだろうが、医療機器分野での協業に期待して出資したソニーにまで「知らぬ存ぜぬ」を貫くことができるだろうか。

「フライデー」2013年4月12日号より

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