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特別企画 吉川良三 井上久男
シャープ パナソニック ソニーの今を見て思う
会社にも寿命があるのです

 降って湧いた円安で、一転、業績が急回復しているかに見える日本の家電メーカー。この兆しは本物なのか。モノづくりを知り尽くす、サムスン電子元常務と気鋭の経済ジャーナリストが語り合った。

赤字でも平気な人たち

井上 シャープは円安などの恩恵を受けて今年度下期の営業黒字を達成する見通しですが、この利益は企業の競争力や自助努力とは無関係に降ってきただけ。円安差益はあぶく銭です。そんなものに頼っている企業に未来はありませんね。

吉川 変化に対応できていない日本企業を見ていると、やはり企業には「寿命」があるのかと思いたくなる。

井上 サムスンの出資を受けることになったシャープは、最新液晶技術「IGZO」という武器があるのだから戦略的に交渉することもできるはずなのに、それがまったくできていない。財務状況があまりに脆弱なため時間をかけて交渉する余裕がないからです。

吉川 シャープは今秋、2000億円の社債が償還期限を迎えます。日本の銀行からこれ以上の援助は期待できないとすれば、ここで腹を括るしかない。

井上 業界は違いますが、日産はルノーの傘下に入ったけれども、技術的には日産が主導権を握る立場は守っている。シャープにはこうしたしたたかさが見あたらない。それどころか、これまで交渉してきた鴻海や新たに提携するサムスンに33・3%を超える持ち株比率を持たれて主導権を握られないようにするなど、メンツにばかりこだわっています。新しい資本を入れないと財務的に苦しいシャープの経営者には、会社をいかに存続させるかという危機感がまったくないと言わざるをえない。

吉川 サムスンにしてみれば、シャープに出資する100億円は微々たる金額です。本当はその何倍も出資できるが、日本の国民感情や経産省に気を遣っているのでしょうね。サムスンの李健熙会長は、かつて半導体技術をシャープから学んだことがあります。'70年代頃のことです。その恩義があり、少なくとも経営トップは、「シャープを生かしたい」と心から思っている。

 ただ、その下の人たちはやや意識が違っていて、彼らはただ技術が欲しいだけ。彼らが最終的に欲しがっているのはIGZOの製造技術で、これは間違いない。サムスンは現在、次世代パネルの有力候補として「有機ELディスプレイ」に力を入れていますが、今の段階では大型パネルの量産技術は確立していない。

井上 だからこそ、IGZOの技術が欲しい。

吉川 しかも有機ELは劣化が早く、今の技術では寿命は5年程度しかありません。スマホなら使用年数は3年程度だからいいのですが、大型テレビは5年以上使います。そのため、サムスンはインターネットに対応した「スマートテレビ」を普及させようという戦略を考えている。テレビをパソコンや携帯電話などと同じように、3年で買い換えさせようというわけです。

井上 シャープにとっては、鴻海と組むほうがはるかにメリットは大きいでしょう。サムスンは携帯電話など、シャープと競合している分野もあります。一方で鴻海はシャープとの競合分野がないだけに、鴻海と組んで打倒サムスンを目指したほうが戦略的です。日産がルノー傘下で生き残ったように、シャープも鴻海の傘下になって生き残る戦略もあった。それを実行しないのは、結局、経営者が経営の主導権は持ったままでいたいという自己保身しか考えていないからです。

吉川 サムスンの初代会長・李秉喆は「企業の最大の目的は金儲けだ」という明確な哲学をもっていて、「赤字を出すことは犯罪だ」とまで言い切っています。ところが赤字を出しても平気なのが、日本の経営者です。サムスンの哲学に従えば、日本の電機メーカーのトップはほとんど「犯罪者」になる。

 シャープやパナソニックにいたっては、赤字を垂れ流した経営者が会長に上がっている。会長は名誉職だとしても、これはどう考えても異常ですよ。

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