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2013年04月18日(木)

『物理がわかる実例計算101例』
大づかみに計算して物理現象を理解する
スワルツ・クリフォード=著 園田英徳=訳

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物理学の定量的なアプローチの威力を知る

 大づかみに計算して物理現象を理解することを英語では“封筒の裏の物理”と言い、スタンフォード大などでも同名の授業がある。元々は、物理学者が問題にぶつかったとき手もとの紙切れ(往々にして“封筒の裏”)に概算して問題に見当をつけることを指す言葉だ。面白い結果の得られる101の例をまとめた本書は、“封筒の裏の物理”の優れた教本である。

 

まえがき

 物理の問題は、実際に測定し、数字であらわすことができて、はじめて少し分かったということになる。しかし、もし数字であらわせないならば、その知識は乏しく不満足なものでしかない。それは知識のとっかかりにはなるかもしれないが、科学のレベルには達していない。
                   ──ケルヴイン卿(ウィリアム・トムソン)

 ケルヴイン卿ならではの名言! この本の目的は、この考え方にのっとった物理学の定量的なアプローチの威力を、読者に味わってもらうことにある。定量的とはいっても、それは数学的であることではない。たいていの科学には数学的な導出が必要であるが、そのあとには実際に数値を出して、テストしたり比較したりしなければならない。それは大きいのか小さいのか? 得られた答えの誤差は1%か10%か、それともだいたいの大きさをあらわすだけか? この本では、桁数を求めることだけで満足することにしよう。問題によっては10%の誤差が生じるかもしれないが、誤差を1%にするためにわざわざ細かいことまで考えたりはしない。もちろん、次のレベルに進んで誤差を1%にするためには、まったく新しい分野の物理が必要になることもある。

 この本で紹介するのは、簡単な式に数字を代入するだけでおもしろい結果が得られる、101の例である。なかにはあまり知られていない例もある。数行の四則計算ですべての原子がほぼ同じ大きさを持つことを示すことができる。相図にあらわれる線の傾きを読み取ることにより、アイススケート靴で圧力をかけても氷がとけないことを示すことができる。氷水を飲めばマイナスのカロリーが得られるか? 数字を代入して解明しよう。

 桁だけの答えが求められる計算のことをよくフェルミの問題という。エンリコ・フェルミはデータの存在していない問題に対して近似値を与える能力で有名だった(注)。この本で扱う問題では、データブックに載っているデータは自由に使うことにする。たいていの場合、われわれの計算は間違っても2倍大きいか小さいかである。時には得られた答えが改良のヒントを与えることもあるし、使ったモデルの限界を示すこともある。この本で扱うタイプの問題の例としてはAmericn Journal of Physicsに連載された二つの記事がある。一つはヴィクトル・ヴァイスコップフの「簡潔さの追求」で、1985年1月号から12月号まで連載された。もう一つは、毎月問題3問、翌月にその解答というスタイルでエドワード・パーセルによって連載された「封筒の裏」で、1983年1月号から翌年の7月号まで続いた。問題のレベルはこの本よりも高いものだった。「封筒の裏」とは、よく物理学者のやることで、なにか問題にぶつかったとき、手もとの紙切れに(往々にして封筒かなにかの裏に)概算してみることを指している。もちろん物理学者はよく使われる物理定数や単位の換算係数を覚えているものである。「読者へのメモ」では、この類の数字、たとえば1.6×10^-19J=1eVをリストにした。

 この本で使う近似の一つは、原子の古典模型である。それはボーアの模型で、電荷を持つ微小な球体が自転しながら軌道を描いている。多くの場合この模型は驚くほど実験とよく合い、役に立ちまた示唆に富んだ関係式を与えてくれる。計算に必要な数字と単位が出そろうと、あとは計算あるのみである。もし手元に電卓があるなら、それを使って掛け算割り算をするとよい。電卓がないなら、すべての数字をせいぜい1桁か2桁にとどめて、10のべき乗を使ってあらわすとよい。たとえばボーア半径の計算はこうする。

電卓で計算すると5.3×10^-11mを得る。電卓を使って計算し、それから使わないで計算すれば、お互いの計算のチェックになる。

 定量的な計算には数値を扱うことへの自信が必要であるが、それは練習によってしか得られない。物理の授業でしかその練習はできないだろう。物理を学ぶ生徒がニュートンの法則を理解するかしないかは別にして、定量的なアプローチはどんな問題にも使えることを知っておいてもらいたい。ケルヴィン卿のことばは高慢に聞こえるかもしれないが、彼は偉大な科学者だった。

注)
典型的なフェルミの問題は、ニューヨーク市には何人ピアノ調律師がいるかである。ニューヨークの人口は10^7人。したがって世帯数は2×10^6。ピアノを持つ世帯は10に1とすると、2×10^5台のピアノがニューヨークにはあることになる。それぞれのピアノは2年に一度調律が必要とすると、1年に10^5回の調律がある。調律師は1日に5件調律ができるとすると、1年に200日働くとして、市には100人の調律師が必要である。10人以下または1000人以上であることはないだろう。また、ここで仮定した割合とは少し異なる割合を使っても、結果はたいして変わらないだろう。


 

著者 クリフォード・スワルツ(CLIFFORD SWARTZ)
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で教鞭を執り、高校・大学の物理教員向けの専門誌“The Physics Teacher”の編集長をほぼ30年にわたって務めた。物理教育への功績が認められ、アメリカ物理教育学会(AAPT)1987年度エールステッドメダルを受賞。物理教育委員会(PSSC)の活動にも参加し、「考える物理」の教育を実践した。
訳者 園田英徳(そのだ・ひでのり)
1958年、東京生まれ。カリフォルニア工科大学でPh.D.を取得。現在、神戸大学理学研究科物理専攻准教授。専門は素粒子理論。著書に『大学院生のための基礎物理学』(講談社)。

【目次】
第1章 力と圧力
第2章 力学と回転
第3章 音と波
第4章 熱
第5章 光学
第6章 電気
第7章 地球
第8章 天文
第9章 原子と分子
第10章 素粒子と量子

『物理がわかる実例計算101選』
大づかみに計算して物理現象を理解する

著者:クリフォード・スワルツ
訳者:園田英徳

発行年月日:2013/03/20
ページ数:229
シリーズ通巻番号:B1809

定価(税込):924円 本を購入する(Amazon)


(前書きおよび著者情報は2013年3月20日現在のものです)

 


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