上の写真は昨年9月14日、東京・お台場の「東京ベイコート倶楽部」で開かれたセミナーの様子だ。そこで日本人の出資者を募ったのは、米国人のマーティ・マシューズCEO率いるネット関連企業「インターラッシュ」(本社・カリフォルニア州)である。
インターラッシュは、ネットコンテンツ提供会社だが、「東芝など有名企業を片っ端から上場させた」といった派手なセールストークを用い、「会費を払い続ければ、株式上場した際に配当金を約束する」と謳って、'11年だけで67億円を会員から集めた。だが、上場のアテもないのにカネを騙し取られたと、日本人13人が会社と経営陣、幹部メンバーを相手取って計40万ドル(約3700万円)の損害賠償を求める訴えを連邦地裁に起こしたのだ。近く10人が追加提訴し、請求額は計200万ドル(約1億8500万円)になる見込みだが、原告代理人の梶岡敦弁護士は「被害額はそれどころではない」と憤る。
「彼らがセミナーで会員を募っている日本、台湾、香港で、計2万人、被害総額は500億円に上ると見られるのです」
設立当初を知る内部関係者によれば、ネットを使ったマルチ商法でカネを集めて破綻し、米連邦取引委員会(FTC)に訴えられた「スカイビズ・ドットコム」日本組織のトップリーダーだったM氏が、そのビジネスモデルを焼き直して始めたのが、インターラッシュだという。
「会社が稼働した'03年当初はスカイビズと同じく、200MBのホームページを有料でレンタルして会員からカネを集めていましたが、無修正アダルトビデオの配信会社に切り替えた。そして翌年、M氏が頼った元スカイビズのメンバーから、『ストックオプションを利用しよう』というアイディアが出たのです」(内部関係者)
そのアイディアを出したのが、現在、日本の統括責任者を務める糸数恵氏(53)だった。糸数氏は会員向けDVDの中で、「17歳でオートバイ全日本選手権最優秀選手獲得」と経歴を紹介されている。
本来、ストックオプションとは、その会社の役員、従業員が自社株を一定の価格で購入できる権利を指すが、彼らが編み出した「ストックオプションプログラム」は、少々違う。DVDの中で日本人幹部が、その仕組みをこう説明している。
「持ち株の10%、5000万株をストックオプションとしてみんなに分けます。この会社は5億株持ってるんです。今、この会社の株価は1株0.2円です。この会社、本気で(1株)40ドル付ける気で行ってます。では、5000万株、3年後に上場しました、40ドルつきました……2000億円になります。これをみんなで分けていいって言ってるんです」
こうして、映像配信料だったはずの会費(1口100ドル=当時1万2000円)は、〝未公開株購入の権利〟へとすり替わり、パソコンを持っていない高齢者までもが投資とばかりカネを注ぎ込んだ。
'05年8月頃に会員になった京都市の男性会社員は、こう悔しさを滲ませる。
「プログラムでは、『(上場する)'07年6月まで、じっちゃんも、ばっちゃんも、他の会員をリクルートなんかしなくても株をあげます』と謳っていました。上場するには5万ポジション(5万口の契約)達成が必要と言ってはいましたが、'07年6月までに達成し、1年の準備期間の後に上場することは、会員の間で既定路線になっていたんです。私は'05年8月~'07年6月に100万円超の会費を払い、6000株もらえることになっていました。1株最低40ドルと言っていたから、今なら2400万円になります。ところが'06年末、『上場するまで払い続けないと駄目です』と話が変わりました。途中でやめれば支払った100万円が無駄になると思ったんです」
ようやく昨年末に脱会したが、家族合わせて総額1500万円もインターラッシュに収めてしまった末の決断だった。
梶岡弁護士は、インターラッシュの売り文句の中に根本的なウソを見出す。
「彼らは、5億株発行していると言っていますが、完全にウソです。会社設立時の定款には発行できる株式の数は100万株とあり、州に問い合わせても変更の痕跡はない。5000万株を分けるという説明は、不実告知にあたります。彼らは、ポータルサイトの運営で広告費が入ると説明していますが、現実には会員から入る会費だけが収入です。実体のないビジネスで、どうして上場できるのか」
昨年10月には、「上場の審査は通る」と自信満々に答えた糸数氏にあらためて話を聞くと、そのトーンは落ちていた。
―5億株発行と公表しておきながら、100万株が上限とは、どういうことか。
「会社から聞いた数だ。分からない」
―DVDの中で、ストックオプションプログラムは、あなたが発案したとある。
「発案というか提案ですよ。踏み込んだ話については会社が決定している。もともと、コンテンツを利用している人に(株購入の)優先権を与えるという話で……」
―パソコンを持っていない人にも株の話をして加入を呼び掛けている。
「間違った認識や説明によって入会し、『詳しい説明を受けずにカネだけ出せと言われた』という人はいるでしょうね」
ITバブルの腐った泡が、いまになって弾けた。梶岡弁護士は民事だけではなく刑事事件としての立件も視野に入れ、捜査機関などに働きかけている。
「フライデー」2013年4月5日号より