新ローマ教皇就任にみるバチカンの政治的戦略――西側勢力拡大とイスラム、中国勢力の封じ込め
佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol.010 くにまるジャパン発言録より
【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.010 目次】
―第1部― インテリジェンス・レポート
 ■分析メモ(No.22)「習近平・プーチン会談でわかった中国外交の敗北」
 ■分析メモ(No23)「なぜ『主権回復の日』に沖縄が忌避反応を示すのか?」
―第2部― 読書ノート
 ■『教養としての経済学 生き抜く力を培うために』
 ■「アベノミクスをどう評価しますか? 地道なことを辛抱強くするしか道はない」
 ■『数えてみよう・無限を調べる』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録 
―第5部― 佐藤優さんの今後の予定(5月初旬まで)

コメンテーター・ジャパン

邦丸: 今日、取り上げるニュースはこちら。

伊藤: 日経新聞国際面。「新ローマ法王 カトリック教会の改革が課題」

 ローマ法王に初めての中南米出身者として選ばれたフランシスコ1世は、相次いだ醜聞でイメージが失墜したカトリック教会の改革で手腕を発揮することが期待されています。新法王としてフランシスコ1世が抱える大きな課題は、執事による内部文書の流出などで明らかになったバチカン内部の権力闘争の収拾です。これまでバチカンから離れたブエノスアイレスで聖職者の業務に従事してきた新法王は、バチカン内部のしがらみがないのが強みです。その一方で、どこまでバチカン内部の有力者を掌握できるかは未知数ではあります。イスラム教をはじめとするほかの宗教や国交が断絶したままの中国との関係改善も課題とされています。

邦丸: このような「ローマ法王」という表記はやめてください、「ローマ教皇」にしてくださいとローマ教皇庁は言っているということなんですが、佐藤さん、そもそもなぜ「ローマ法王」ではいけないんですか。

佐藤: 「法」とは“仏教”の教えを意味するんです。法王はその王様である。日本にキリスト教が入ってきたとき、よくわからないままに最初は「パパ様」とか呼んでいたわけですが、わからないまま「パパ」というのもなんだから、日本では何に近いのだろうかと考えた。それは「法王」だということでそう訳したのですが、後になってぜんぜん違うぞ、法王は浄土真宗かなにかの概念だと気づいた。

 それで「教皇」に替えたのですが、マスコミには「法王」が定着してしまったので、「法王」「教皇」が混在していたんです。二代前の教皇だったヨハネ・パウロ2世が日本に来たときに、「教皇」に替えましょうとあっちこっちのマスコミにお願いするとともに、外務省にも「名前を駐日ローマ教皇庁大使館」にしたいと言ったら、外務省が「ダメーっ」。

邦丸: へぇー。

佐藤: 一回登録したらダメ―っ。国の名前が替わったわけではないのだから、一度登録したら替えられないということで、今も「ローマ法王庁大使館」を名乗っているんです。

邦丸: 法王から教皇に呼び方を替えるっていうのは、そんなに大変なことなんですか。

佐藤: 大変なことじゃないです。外務省の内規の問題ですから。もし、安倍晋三総理が指導力を発揮して、「これ、替えてやればいいじゃないか、向こうがそういう名前だ、そっちが正確だって言っているんだから」ということになれば、日本とバチカンの関係がぐっと進みますよ。

邦丸: そんなに進みますか。

佐藤: バチカンというのは意外と政治的なんです。ローマ教皇には二つの立場があるんです。ひとつは、カトリック教会全体のトップの宗教人です。もうひとつは、バチカン市国というローマのなかの小さな国の国家元首なんです。第二次大戦中も実は日本とバチカンは外交関係をもっているんです。それで、バチカンを経由してアメリカと和平交渉をやろうとしていたんです。

邦丸: そうなんですか。

佐藤: ですからバチカンは今のタイミングでなにが重要かというと、中国との関係です。中国とバチカンというのは国交がないんですね。

邦丸: 今、伊藤佳子アナが日経を読んでくれましたが、国交が断絶したままなんですね。

佐藤: どうしてかというと、中国が世界基準を認めないんです。バチカンと国交関係を結ぶときは、カトリック教会幹部の人事をバチカンがやることになるんです。でも、中国には中国政府がつくったダミーのカトリック教会があるんですよ。

邦丸: そんなのがあるんですか。

佐藤: プロテスタントのほうもそうなんですが、ダミーの教会は中国共産党とほぼ一体なんです。そこで人事を全部やります。それでは信教の自由が守れない。原理原則が違うから、バチカンは中国とは関係をもてませんね。中国が世界共通の価値観を受け入れようとしないという典型的な事例です。

 そうなると、逆にここでバチカンに頑張ってもらって、宗教団体の人事を宗教団体がやってもぜんぜんおかしくない、それが世界基準だということを中国に認めさせることによって、たとえば大気汚染に関しても世界基準をちゃんと認めさせる。あるいは、病気で死んだブタを勝手に川に流さないというルールを認めさせる。このように全部、パッケージなんですね。TPPにしても、これもひとつの国際基準をつくって中国に認めさせることなんですよ。だから世界が大きな対中圧力をかけているなかで、バチカンは大きな力を発揮するんですよね。

邦丸: ただ、中国の立場からすると、バチカンと国交を回復するということは信教の自由を認めるということになってくる。中国の国内の宗教問題が一斉にウワーッと出てきますよね。これを抑えるのは大変だと思うんですけど。

佐藤: おっしゃるとおりなんです。要するに、国家によって宗教を規制しなければ、昔の太平天国の乱みたいに、キリスト教系の新興宗教が出てくる可能性がある。あるいは、プロテスタント系は中国キリスト教三自愛国運動というのがあって、国を愛するキリスト教徒の運動というのを国家が統制しているんですが、それに入らない地下教会があるんですね。ですから、そこのところの抑えが効かなくなる。今、バチカンとはすごいガチンコ勝負をやっているわけですけれど、バチカンとの間で共通のルールをつくるのは、実は簡単なんですよ。ただ、それでは下が抑えられなくなる。中国が懸念しているのは、まさにそこのところなんです。

 まあ、国民が信じたいというのを抑えつけないともたない国というのは、いつか吹っ飛びますよ。・・・・・・

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