政府の「電力システム改革」に異議あり!
「原子力国家管理化」と「電力M&Aによる大規模集約化」こそが真の電力改革だ!

文・石川和男 (政策家/社会保障経済研究所代表)

 今、政府が進めようとしている"電力システム改革"とは何か。それは、大きく次の4つである---。

①小売全面自由化: 家庭等の小口部門でも電力会社の選択や自由な料金設定を可能にすること。

②料金規制撤廃: 最終保障サービスやユニバーサルサービスといった需要家保護措置を施しつつ、総括原価方式を廃止して自由な料金設定を可能とすること。

③発送電分離: 電力会社の発電部門と送配電部門を切り離し、競争的な市場環境を実現しようとすること。

④その他に送配電の広域化・中立化のための広域系統運用機関設立や、卸電力市場の活性化のための卸規制撤廃。

 これらの制度変更の工程を盛り込んだ電気事業法改正案が今国会に提出される。

 換言すれば、東京電力福島第一原子力発電所の事故後の電源構成と、原発をベース電源の中心とした地域独占と発送配電垂直一貫の電力供給体制に関して疑義が生じていることを理由として、前述①~④に掲げられるような制度変更を行おうというものだ。

制度変更は国民や経済社会に恩恵をもたらすか

 経産省がこの制度変更を進めたい気持ちはとてもよくわかる。1990年代半ばに始められた改革の動きは、卸電力自由化(95年)、大口電力小売自由化(99年)など4度にわたる電気事業制度変更の歴史そのものだ。

 実はこの検討当初から、今の政府案で掲げられた"発送電分離"や"電力全面自由化"は、政府内部で研究や検討がなされていた。実に20年近くも前のことだ。今回の改正法案が成立すれば、20年越しの大願成就ということになるのかもしれない。

 こうした制度変更が電力需要家である国民にどのような恩恵をもたらすのか、ひいては我が国経済社会にどのような裨益があるのか、今後当面の経済社会情勢を俯瞰しながら考えるに、特に①~③については悲観的にならざるを得ない。

 小売全面自由化については、電力選択の自由を全ての国民に保証することが標榜されている。では、一体誰が家庭向け小口電力供給に新規参入しようというのか。政府は具体的な参入予定者を挙げていない。

 マンションなど集合住宅への特定電気事業という形態の小口供給には現在5社が参入している。だが、全面自由化となれば、いわゆる広域供給を行う現行の一般電気事業の形態での新規参入がないと何の意味もない。その場合、発電能力は最低でも数十万kw級で、計画から竣工まで通常8~10年程度を要する。

 発電に必要な化石燃料の調達も簡単ではない。天然ガスや石炭を、現在の電力会社や都市ガス会社に比肩する程度のコストで調達できる新規事業者が、果たして国内に存在するのであろうか。繰り返すが、政府はその候補となる事業者名を挙げていない。

 新規参入者がいないのに、電気料金規制撤廃も含めた全面自由化をしたらどうなるか。既存の電力会社の独占力が強まるだけだ。規制されていてさえ、それぞれの地域で強い支配力を持つ電力会社が更にその力を強める可能性を、法制的に認めることに他ならない。よって、小売自由化範囲については現行通りで据え置くべきなのだ。

 因みに、2000年に大口電力小売自由化を開始して以来、いわゆる"新電力"は、参入数は届出ベースで53社(12年3月末)に上っているが、実際に電力供給を行っているのは27社(12年1月)で、全体の販売電力量に占めるシェアは3.5%程度に過ぎない。

 工場やオフィスビルなど大口需要分野に比べて、事業としてのうま味が薄い家庭用など小口需要分野への新規参入が想定されないのは、大口需要分でさえこの程度しか新電力が参入していない電力市場実態にもよる。これでは、自由化による需要家の選択肢拡大が保障されると信じることは到底できない。

 卸規制撤廃による卸電力市場の活性化が掲げられているが、この点については、既存電力会社が長期買取りを保証すれば、卸発電事業への新規参入はかなり期待できる。特に、原発代替の有力な候補と見込まれている火力に関しては、新規参入者が増える可能性が高い。既存電力会社による卸電力買取機能を強化していくことが、小売全面自由化によっては実現しない発電市場活性化を実現することとなろう。

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