官々愕々
「規制改革」を阻む官僚の暗躍

〔PHOTO〕gettyimages

 安倍総理がTPP交渉参加を表明した。農業の輸出産業化なども高らかに謳われているのを取り上げて、遂に「アベノミクスの第三の矢、成長戦略が動き出した」とはやし立てる向きもあるが、本当だろうか。

 表向きの派手な動きとは裏腹に、成長戦略策定に重要な役割を果たすと見られている産業競争力会議と規制改革会議の動きを見ると、我々は、安倍政権を盲目的に支持する御用新聞が伝える大本営発表に踊らされているにすぎないことがわかってくるのである。

 産業競争力会議の改革派の民間委員は、第一回会合で、成長戦略の一丁目一番地は規制改革だと主張した。しかし、同会議の主たるテーマは規制改革とはならなかった。それどころか、規制改革会議という別の議論の舞台が設定されてしまった。これは官僚の常套手段だ。重要な問題をいくつかの会議に分断すれば改革派の力を分断できる。民間から出ている委員を裏でサポートする人達の数は非常に少ないからサポートも不十分になる。

 二つの会議については、表向き、「有機的な連携を図る」(甘利経済・財政担当大臣)建前になっているのだが、実際には重要なテーマについて、総合的な視点での議論が抜け落ちて矮小化され、気づいてみると大きな改革ができなくなる事態に陥る可能性が高い。要するに、官僚が嫌がる改革はできない仕組みになっているのだ。

 官僚の戦略は、会議の進め方の主導権を握るところから始まる。規制改革会議で複数の改革派の委員が、会議のインターネット中継と多忙な場合の電話会議方式での参加を認めることを要求したが、岡素之議長(住友商事相談役)がこれをあっさり否定してしまった。実は、官僚が、会議の運営に関することは議長が決めるという一文を運営規則に潜り込ませていたのだ。もちろん議長は官僚がコントロールしやすい人を選んでおく。これで、一番危険な会議である規制改革会議の主導権を官僚が握ったのである。

 官僚は、自分たちの発言がリアルタイムで世間に監視されることになるネット中継を極端に嫌がる。マスコミ操縦はお手の物だが、ネット世論をコントロールするのは難しいし、顔を見られて匿名性が失われ、責任追及されるのが非常に怖いのだ。また、電話会議をなくしてしまえば、あとは改革派委員の都合の悪い時間帯に会議を設定すればよい。いまどき大手企業ならどこでも電話会議をやっているのに、岡議長にこれを拒否させた。いかにもという感じだ。

 会議の検討項目も、産業競争力会議と規制改革会議の間で守旧派に都合よくうまく振り分けられた。例えば、電力改革の肝である「発送電分離」は、第二回規制改革会議で掲げられた検討対象の中には含まれなかった。私は、当日の報道ステーションでこれを批判したのだが、そうした批判を受けると、第三回には「発送電分離」を入れながら、法案策定作業中ということで、これは「待機事項」(大田弘子議長代理)とされてしまった。つまり、事実上の聖域扱いにされたのだ。

 さらに農業についても、規制改革会議の方では大項目には入れずに、創業・産業の新陳代謝という項目の中の小項目扱いにした。産業競争力会議で議論しているから、独立項目にはしないという理屈だ。一方、産業競争力会議では農業にバラマキ補助金を出すための検討だけが着々と進んでいる。TPP参加で農業の輸出産業化を唱えながら、肝心の規制改革は議論されないのである。

 動き出したのは結局、「バラマキの成長戦略」でしかないようだ。

『週刊現代』2013年4月6日号より

大反響!
新聞が書かない日本の問題点がわかる!
 
著者:古賀茂明
価格:400円(税別)
配信周期:
・テキスト版:毎月第2金曜配信
・動画版 :毎月第4金曜日配信
 
 
※お申込月は当月分(1ヵ月分)を無料でお読みになれます。
 
 
『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
著者:古賀茂明
価格:500円(税別)
※2013年5月下旬発売予定
 
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。