奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」
2013年03月23日(土) 奥村 隆

奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第22回】
理解できない夫の言動に、泣いて怒って苦しんだ妻の告白

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【第21回】はこちらをご覧ください。

本当は、妻に嫌われているのかもしれない

 立派な中年になってから、医師に「『大人の発達障害』の疑いがあります」と診断された、会社の先輩で大恩人のOさん。4月から九州に転職する彼のため、僕は職場近くの中華料理店にささやかな送別会の席を設けたのだが、そこでいきなり彼の奥さんが語り始めた家庭でのエピソードは、僕を仰天させるものだった。

 僕は職場での、常に冷静沈着で黙々と働き、かつ優しく穏やかなOさんの姿しか知らなかった。それが、家族旅行ではあまりにも細かすぎるスケジュールを作って、その通りに動くことを妻子に強制したり、いったんゴルフに行くと決めたら、幼い娘が急病で救急病院に担ぎ込まれていても、平気でゴルフ場に現れたり・・・といった、かなり横暴な行動を取っていたのだ(第21回参照)。

 僕は驚きのあまり、好物のエビチリに箸をつけるのも忘れて、呆然と奥さんの話を聞いていた。そして同時に、「Oさんの家庭での行動は、俺には理解できるものばかりだ」と内心ひそかに思っていた。Oさんと同じASD(自閉症スペクトラム障害)を持っている僕は、「人に嫌われないように振る舞う」という自制心さえ吹っ飛んでしまえば、きっと彼と同じことをしたに違いなかった。

 次に襲ってきたのは恐怖感だった。Oさんは、心の底から愛し合っていて大の仲良し(に僕には見えた)の奥さんから、ここまでひどい嫌悪感を持たれていたのだ。Oさんの奥さんと同じ感情を、僕の妻が持っていても全然おかしくないからである。

 本当は、妻に嫌われているのかもしれない---。そう思うと、食欲など完全に失せてしまった。酒も飲む気にならなかった。

 もちろん、僕がそんなことを考えて恐怖におののいていようとは、Oさんの奥さんは想像すらしていなかったのだろう。彼女はさらに、夫の家庭内での行動をいろいろと思い出し、憤りをあらわにしながら話し続けるのだった。

 「旅行の計画ほど大きなことじゃないんですけど、主人が毎日する行動で、いつも腹が立って仕方がないことがあるんです。奥村さん、わかります?」

 「毎日する行動? 何でしょうか?」

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