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「一票の格差」に数億円投入する「最強弁護士」の素顔
現在所属する事務所は六本木ヒルズにオフィスを構える。背後には住宅棟を望む升永氏の執務室〔PHOTO〕鬼怒川 毅
昨年12月の総選挙直前には、全国紙各紙に全面広告を何度も出し違憲を訴えた

「一票の格差」に関する高裁・高裁支部の判決が今月、各地で続々と出される。3月6日に東京高裁、7日に札幌高裁で「違憲」判決が出たのを皮切りに、全国で計16の判決が下される予定だ。その訴訟の中心人物が升永英俊弁護士(70)だ。

「50年前に大学で憲法の講義を受けたときから、『これ(格差)はひどい』と思っていました。その後、日常の仕事に追われ、手をつける時間がなかった。 '02 年に日亜化学工業の事件の中間判決が出る直前くらいに、『いまの国会は、少数者に選ばれた代表が国家権力を行使している』と気づいたんです」

 升永氏は東大法学部、工学部の双方(!)を卒業、司法試験に全体2番で合格。米コロンビア大に留学し、ニューヨーク州、ワシントンDCの各弁護士資格も得た。並外れた頭脳を武器に勝ちとった、弁護士としての実績は凄まじい。知的財産、税、不動産事件などの訴訟で次々に巨額の支払いを命じる判決を獲得。当然「成功報酬」もうなぎのぼりで、 '01 年には全国で66位の高額納税者(約3億4000万円)となった。

110歳まで闘いつづける

「升永先生の名前が一躍有名になったのは、中村修二氏が所属していた日亜化学工業を訴え、青色発光ダイオード(LED)発明の対価として200億円の支払いを認めさせた事件です(その後、約8億4000万円で和解)。ほかにも日立製作所の技術者が会社を訴え、1億6300万円の支払いが認められた事件や、バブル期に結ばれた不動産の又貸し(サブリース)契約見直しに関する訴訟など、新解釈を引き出す有名判決をいくつも獲得しています。

イタリア製の超高級自転車に跨り、最高40km以上の超高速で都内を走り抜ける

 升永先生の手法は、常人離れした集中力で資料を読み、論理を組み立てる。提出する書面も青、赤、緑など多色刷りで、重要度が裁判官に一目で分かるように工夫されており、独特です」(若手弁護士)

 その升永氏がこの3年半、熱心に取り組んでいるのが「一票の格差」撤廃訴訟だ。衆議院で2・43倍、参議院で4・75倍―現在の日本の選挙制度では、地域によって、一議席あたりの有権者数に大きな違いがある。鳥取県では24万人が一人の参議院議員を選出しているが、北海道は114万人に一人。高知3区では20万4000人が一人の衆議院議員を選出、千葉4区は49万5000人だ。この「一票の格差」の抜本的な是正は先送りされたままだ。

「これは不条理です。従来は格差が2倍以内であればいいとされていたが、やはり人口比例選挙でなければ話にならない。

 カギは、最高裁判事を審査する国民投票。これまで一票の格差訴訟は、法曹界のブラックボックスのなかだけで行われていた。新聞広告で個々の最高裁判事が人口比例選挙に賛成か、反対かを伝えれば、国民はそれを判断材料に使えます。そうすれば国民の関心のもとで裁判が行われると思ったんです」

―とはいえ、新聞広告を出稿するのには1回数千万円かかります。

「すでに、100回以上出しています。私を含め数人の仲間とこの運動のサポーターが広告費を負担している。(カネのある)いまならできるんです」

―計算上、一人あたり数億円(!)という巨額です。いま、続々「違憲」判決が出ていますね。

「速やかに最高裁が先の衆院選が違憲という判決を出すでしょう。憲法は人口比例選挙を要求している、と明言するはずです。その後、3週間以内に国会で是正の動きがなければ、国家賠償請求訴訟を起こすつもりです。海外在留邦人の選挙権が毀損された訴訟の判例から、有権者一人あたり、5000円の損害が認められるはずです。1億人の全有権者が損害を申し立てれば、国は計5000億円を支払わなければいけない。さらに首相は、違憲状態を放置した各議員にそれを請求する。議員一人あたり、10億円の支払い義務が発生するんです」

―そうなったら、議員は自己破産するほかない。

「一部の議員はすでにそれに気づいて、『ホラーだ』と言っているようです。私は人口比例選挙の最高裁判決が出れば、この問題は区切りと思っているんです。今後は別の問題に取り組むことを考えています。

 私の目指すのは、オリンピックの金メダルじゃないんです。決められたルールのなかで金メダルを獲得するのは、所詮それだけのこと。むしろ不条理を正す仕事がしたい」

―升永先生の普段の生活は。

「以前は忙しくて、寝袋で事務所に泊まりこむこともありましたが、最近は年も年だしちゃんと帰宅しています(笑)。銀座で飲んだりクルーザーに乗るより、不条理を正すために考えているほうがずっと楽しい。健康維持のために睡眠時間は7時間、腹筋を一日60回、ニセコで標高差500mの直滑降スキーや自転車をやっています。私は、110歳まで生きると〝覚悟〟しています(笑)。そして、〝悔いを残して〟死にたい」

「フライデー」2013年3月29日号より

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