矢は一本たりとも放たれていない! 首相個人への「信頼感」のみによって経済が動き出す前代未聞の展開に死角はあるか
〔PHOTO〕gettyimages

 トヨタ自動車や日産自動車などボーナスや毎月の賃金アップに満額回答を出す企業が春闘で相次いだ。アベノミクス効果に加えて、安倍晋三首相はじめ閣僚たちが繰り返し報酬アップを求めた異例の要請が効いたようだ。

 これまでは株高円安という市場の活況が好感されていたが、いよいよ賃金に跳ね返ってきた。いまのところ大手企業やコンビニ業界などに限られているが、いずれ下請けや取引先の中堅、中小企業にも広がってくる可能性が強い。

 円安は輸出製造業にはプラスである。原材料を輸入している企業には必ずしもプラスではないが、日本経済全体としてはプラスだろう。

 株高は企業や家計のバランスシートを改善し、その勢いで賃金も引き上げるところが出てきた。賃金の上昇は当然、消費に跳ね返る。次は設備投資の拡大も期待できる。あきらかに経済はいい循環に入ってきた。働く人の所得増加や失業倒産の減少こそが経済政策の目的だ。

 となると、アベノミクスを批判するのは難しくなる。だが、ここではあえて冷ややかに見てみよう。そのほうが、かえってアベノミクスを正しく評価できると思うからだ。

第一の矢さえまだ放たれていない

 まず基本的なことだが、そもそもアベノミクスは実行されているか。実はまだ10%くらいしか実行されていない。どういうことか。

 第一の矢は大胆な金融緩和である。金融緩和とセットになっている2%の物価安定目標は、たしかに日銀に飲ませて政府との共同声明に盛り込まれた。しかし、これはあくまで「目標」であって、いわば「これから2%を目指してがんばりますよ」という決意表明にすぎない。

 

 肝心の金融緩和は日銀が2014年から始めると言っただけ、しかも緩和規模はほんのおざなり、形ばかりだ。だから、次の黒田東彦日銀総裁があらためて本格的な緩和策を決めて実行する必要がある。どう緩和するかは、まだ何も決まっていない。つまり、第一の矢はまだ放たれていないのだ。

 次の矢は拡張的な財政政策である。新聞やテレビは「機動的な財政政策」と言っているが、これは正確ではない。景気刺激には機動的ではなく、拡張的な財政政策こそが求められている。2012年度補正予算はたしかに成立したが、13年度の本予算はいま国会で審議されている最中だ。

 こちらも実際には、政府はまだ財政支出をしていない。したがって第二の矢もまだ放たれていない。

 最後の矢が「成長戦略」。あちこちで指摘してきたように「これをやれば経済は必ず成長します」などという魔法の杖はないのだから、成長戦略という言葉を使うのはやめよう。中身を正確に言えば、政府が宣伝する成長戦略の80%くらいは規制改革である。その規制改革が始まったのかといえば、これも始まっていない。

 私自身が規制改革会議の委員をしていて「何をしているんだ」と言われそうだが、いまはどれを目玉にして、早く実行できるのは何かを整理している段階である。

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