特集「国酒 SAKE」を世界へ
官民一体で輸出促進プロジェクト[国酒 SAKE]

大勢の人でにぎわう米ニューヨークで開かれた日本酒イベント=2月12日、ジェトロ提供

 日本酒など国内で生産される「国酒」を「SAKE」として世界市場に売り出そうという官民一体となった動きが始まっている。民主党政権時の昨年、国家戦略として国酒の輸出促進プロジェクトが打ち出され、政権交代後の緊急経済対策でも「地域の魅力の発信」として盛り込まれ、関係省庁が連携して取り組むことを確認。酒造業界と日本貿易振興機構(ジェトロ)は海外で日本酒を売り込むイベントなどを開催している。一方、国内では伝統的な酒蔵を観光資源にして内外から人を呼び込もうと、観光庁が音頭をとった全国的な「酒蔵ツーリズム推進協議会」が3月下旬に発足し「SAKEからの観光立国」が本格化する。米と水から造られる「日本らしさの結晶」といわれる国酒の振興を図ることで、地域からの日本再生への期待が膨らんでいる。

 世界の経済と文化の発信地である米ニューヨーク市で今年2月12~13日、日本酒の商品と正しい飲み方などを紹介して販売と消費の拡大につなげようという大掛かりなイベントが開かれた。日本酒造組合中央会とジェトロが共催したもので、東北や京都・伏見など日本全国から蔵元計20社が自慢の酒を持ち込んだ。

 イベントのタイトルは大ヒットした米テレビドラマをもじって「サケ・アンド・ザ・シティ」。会場には現地の料飲店や流通関係者、一般消費者ら1000人近い人が集まり大賑わい。各蔵元の酒の飲み比べや日本食とのマッチング、日本酒を使ったカクテルなども振る舞われ、ニューヨーク市民が「SAKE」を堪能した。

 貿易大国・ニッポンの水先案内役を務めてきたジェトロが、農林水産物や日本酒を含む食品の輸出促進に本格的に取り組み出したのは2011年度からだ。アジアの新興国の追い上げや円高などで工業製品の競争力が落ちてきた日本が、新たな成長戦略を模索する動きと連動している。民主党政権が昨年まとめた「日本再生戦略」で「20年までに農林水産物・食品の輸出額を1兆円水準とする」との目標を掲げていた。

 ジェトロは12年度に食品や飲料品の海外見本市をアジアやヨーロッパ、南米など15カ所で開催。日本酒や焼酎に絞った普及イベントだけでも、ニューヨーク以外にシカゴ、ベトナム、香港で開いている。また国内では、岐阜県高山市で昨年11月、地元の酒造組合などと連携して海外からバイヤーを招いて商談会を開くなど、地方の数多い中小蔵元への海外進出の機会提供にも努めている。

 日本酒の消費傾向が指摘されて久しいが、実は輸出額がじわじわと伸びている。財務省「貿易統計」によると、11年は過去最高の88億円。円高基調に加えて東日本大震災と原発事故の影響で食品関係の輸出不振が心配された中で10年を3億円上回った。10年前の01年(32億円)に比べると2・7倍に拡大している。

 国・地域別では、米国が32億円と最も多く、香港の15億円、韓国12億円、台湾5億円と続いている。ジェトロによると、最大の輸出先国の米国では、すでに大手の酒造メーカーが進出している。国内消費量は8割が現地生産で賄っており、残り2割を日本からの大吟醸酒などの上位カテゴリーが占めている。日系人が多い西海岸、特に今回イベントが開かれたニューヨークなど東海岸に加え、シカゴなど中部地域で市場が拡大しているといい、日本食への関心の高まりとともに需要拡大が期待されている。

 香港は08年に物品税が免税になった影響で、日本酒やワインなど酒類の消費が拡大しているといい、特に高級日本酒の売れ行きが伸びている。韓国は日本食や居酒屋ブームが続いており日本酒の消費量が増えてきている。韓国の酒に比べてアルコール度数が低い日本酒が健康にいいというイメージが消費を後押しているとの見方もあるという。

 輸出が伸びているといってもその額は、りんご(65億円)や緑茶(30億円)を上回ってはいるものの、まだまだ小さい。世界の酒事情に詳しい喜多常夫氏の論文(日本醸造協会誌12年7月号)によると、11年のフランスのワイン輸出額は7740億円、コニャックが2260億円、イギリスのスコッチウイスキーは5410億円と、文字通り桁違いだ。韓国のソジュ(韓国焼酎)は91億円で、日本の焼酎の輸出額14億円をはるかに上回っている。

 逆にいえば、日本酒の輸出はそれだけ伸びしろがあるとみることもできる。喜多氏は「日本食のグローバル化をはじめさまざまな事情を勘案すると、10年後の輸出金額は清酒が現在の2~3倍、本格焼酎が現在の4~6倍」と予測している。

野田内閣時に「国酒輸出促進プログラム」

 このような動きを受けて、政府の成長戦略論議の中で昨年、「国酒」の可能性が注目された。当時の野田佳彦首相は「日本酒好き」として知られていたが、自身は「下戸」という古川元久国家戦略相(当時)が5月、酒造業界や料理人、学識経験者らによる「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(国酒を楽しもう)推進協議会」を立ち上げた。その年の7月末に閣議決定された「日本再生戦略」でも「国内だけでなく海外の需要も視野に入れたグローバルマーケティングによる市場拡大のモデル的な取り組みの一つ」と位置づけられ、議論の成果は9月に「国酒等の輸出促進プログラム」としてまとめられた。

在外公館長と配偶者向けに開かれた日本酒講座で試飲する出席者=外務省で1月21日

 ここでいう「国酒」は日本酒ばかりでなく、いわゆる本格焼酎と呼ばれる単式蒸留の焼酎や泡盛、醸造用アルコールにもなる連続式蒸留の焼酎も含まれる。

 プログラムでは、「国酒」は原材料ばかりでなく、日本の風土や、日本人の忍耐強さや丁寧さ、繊細さなどを象徴した「日本らしさの結晶」と高らかにうたい上げた。日本食文化やそれに伴う酒器や食器などの伝統工芸品も含め海外での認知度を高め、「21世紀の異文化との架け橋」になり、さらに地域経済の核であった酒蔵を再興し地域活性化につなげることも目指す、とした。

 マーケティング戦略、国酒ブランドの確立、輸入規制の撤廃・緩和など輸出環境の整備、販路拡大への関係業界の連携――など、いわば「国酒」の輸出拡大のために官民が協力して何でもやろうとの意気込みを示した形だ。政権交代で国家戦略室が廃止されるなど、先行きが一時心配されたが、安倍晋三内閣でも内閣官房を中心に政府として取り組むことが確認されている。

 酒類に関しては明治政府以来、国の主務官庁は酒税を徴収する国税庁と決まっている。全国の国税局に醸造学の専門家である鑑定官を配置し技術指導も含め酒蔵を管理してきた。輸出促進を目指す新たな取り組みは、原材料や外食産業が絡む農林水産省、中小企業振興に関しては経済産業省、観光振興から観光庁、地方活性化の面で総務省、そして外交をつかさどる外務省などオールジャパンの体制が求められる。

 外交の場はワイン、というのが世界の通り相場だが、日本外務省は以前から外相主催のレセプションなどでは日本酒ブースを設置してきた。08年の北海道洞爺湖サミットで主要国の首脳を日本酒や国産ワインでもてなしたことはよく知られる。東日本大震災後は酒どころの東北復興のために、在外公館レセプションで日本酒を提供。これまでに約1万7200本の日本酒を空輸している。

 さらに日本酒の魅力を海外へ発信するためにはその知識をより深める知る必要があるとして、11年1月から大使や総領事など在外公館長に赴任する予定の外交官と配偶者を対象にした「日本酒講座」を開いている。この春の異動で海外に赴任する大使・総領事向けの講座が1月下旬に行われた。純米や本醸造、吟醸など国税庁が定めた特定名称酒による味の違いや特徴、食べ合わせ、ワインとの違いなどを試飲しながら学んでいた。

 日本酒は和食ももちろん、中華や西洋など世界の料理に合う「食中酒」としての魅力を発信しようという動きも盛んになっている。農水省が中心になり今年2月から3月にかけてフランスで「日本食文化週間」を展開している。ワインの本場でも日本酒セミナーを開き舌の肥えたフランス人に売り込んでいる。

 政府は「日本食文化」をユネスコの無形文化遺産登録を目指して昨年3月に申請しており、10年に世界で初めて登録された「フランスの美食術」の国でアピールする狙いがあった。

日本酒造組合中央会の会長室に飾られている歴代首相の「國酒」の色紙=東京港区で
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