スポーツ界の「暴力」が問題に
高校部活、女子柔道日本代表の告発……文科省全国調査へ[体罰]

下村博文文部科学相(右)へ暴力問題に関する報告をする全日本柔道連盟の上村春樹会長(中央)ら=文部科学省で2月14日

 スポーツ界で「暴力」「体罰」を巡る問題が止まらない。トップ選手の世界では、柔道全日本女子選手への暴力やパワーハラスメントで監督、コーチが相次いで辞任。日本オリンピック委員会(JOC)による他競技への調査に発展した。また、大阪市立桜宮高校でバスケットボール部の男子生徒が体罰を受けて自殺したことをきっかけに、各地で部活動中の体罰が発覚。文部科学省が全国調査を始めている。同省や与党・自民党は「指導者への研修の義務付け」などの打開策を検討しているが、「暴力」「体罰」問題の広まりは、2020年の東京五輪の誘致に影響を及ぼしかねない。

 国内のトップレベルでも暴力が横行している実態が明らかになったのは1月30日。ロンドン五輪の柔道日本代表を含む国内女子トップ選手15人が、園田隆二代表監督(39)=2月1日付で辞任=やコーチによる暴力やパワーハラスメントがあったと告発する文書を連名で昨年12月にJOCに提出していたことが報道された。

 文書は「女子日本代表チームにおける暴力及びパワハラについて」と題され、練習での平手や竹刀での殴打や暴言、けがをしている選手への試合出場の強要などの事実を訴え出たという。

 実はこの文書の提出前の昨年9月下旬、JOCに加盟する全日本柔道連盟(全柔連)は園田前監督らの暴力行為を認識していたが、11月に園田前監督への厳重注意処分に収めていた。「私たちの声は全柔連の内部では聞き入れられることなく封殺されました。その後、JOCに駆け込む形で告発するに至りました」。女子トップ選手15人の代理人を務める辻口信良弁護士は2月4日、大阪市内で開いた記者会見で選手側の声明文を公表した。

 この告発に、スポーツ行政を所管する文科省が反応した。報道翌日の1月31日、下村博文文科相がJOCの竹田恒和会長を文科省に呼び、(1)JOCによる女子日本代表チームの暴力の再調査(2)他の競技団体についても調査――の2点を強く要請した。文科相との会談後、記者会見した竹田会長は(1)(2)とも調査することを表明した。この動きについて、文科省幹部は「JOCからは事前に何の相談も報告もなかった。東京五輪招致に影響が出た」と懸念している。今年3月には五輪招致のヤマ場となる国際オリンピック委員会(IOC)の現地視察が始まる。それまでにJOCによる調査を終え、幕引きにしたい考えだ。

 また、下村文科相は2月5日に「スポーツ指導における暴力根絶へ向けて」とする各競技団体向けのメッセージを公表。各競技団体に第三者が暴力などの相談を受ける窓口の設置を求めた。自民党スポーツ立国調査会も同日、選手からの相談を受けて調査や対策を進める第三者機関を日本スポーツ振興センター(JSC)内に新設すると表明した。東京五輪招致に向けて、急ごしらえで暴力排除が進んでいる。

 トップレベルでの暴力につながりかねないのが、高校の部活動での「体罰」だ。

 大阪市教委は1月、大阪市立桜宮高校で体罰を受けた男子生徒が昨年12月に自殺していたと発表した。市教委は同校の体育系2科の入試を中止(救済策としてほぼ同内容で普通科の入試を実施)。市の外部監察チームによる同校の全生徒約840人へのアンケートでは、8%にあたる約70人が「体罰を受けたことがある」と回答した。

 その後、愛知県教育委員会の調査で、昨年4月以降、県立高校30校の教諭ら52人が生徒に体罰をしていたことも明らかになるなど、各地で部活動中の体罰が発覚した。文科省は1月23日、全国の小中高校に体罰の状況を報告するよう求め、異例の調査に乗り出した。

 自民党も1月末、中学、高校の部活動のあり方を検討するプロジェクトチーム(PT)の発足を決めたが、メンバーの1人は「五輪の代表チームと部活動は体罰で『鍛えられた』選手が同じ競技の指導者になるという点で同じ」と指摘する。体罰を含むしごきを受け、いい成績を残した選手が指導者になり、体罰を繰り返す。いわば体罰の連鎖だ。

 文科省によると、中学、高校の部活動の指導者になる場合、指導方法や競技ルールなどの研修の定めはない。救命救急などの資格も必要ない。自然、その競技に学生時代から取り組んでいるベテランが指導者になるため、連鎖は途切れることはない。

 一方、部活動の指導者への手当は少ない。都道府県の条例により異なるが、国の基準では平日の手当はなく、休日の勤務が4時間を超えた場合、2400円が支給される。自民党のPTは、(1)研修がない(2)手当がつかない――という状況を改善することを目指し、必要があれば予算化の措置も講じるという。

 体罰を巡っては、毎日新聞が2月2、3日に実施した全国世論調査で、「体罰を一切認めるべきでない」との回答が53%と半数を超える一方、「一定の範囲で認めてもよい」との一部容認派も42%を占めた。体罰を容認する声があることも事実だ。

指導者研修の義務付け検討

 文科省や自民党が目指す打開策は、部活動については「指導者への研修の義務付けや、手当の拡充」、五輪代表のようなトップ選手については「選手からの相談を受ける第三者機関の創設」だ。

 ただし、懸念もある。JOCが2月7、8日に実施した柔道以外の31競技団体への調査では、全ての団体が「暴力はない」と回答した。しかし、共同通信がロンドン五輪で実施された柔道以外の25団体の同五輪代表監督や当時の強化責任者らを対象にしたアンケートでは、2競技で「他の監督やコーチが暴力を振るうのを見た」との回答があったという。調査対象の時期が異なるとはいえ、柔道が氷山の一角であれば、長引く公算は大きい。

 五輪の理念や原則を定めた五輪憲章は「スポーツにおけるいかなる形の差別や暴力にも反対する」とうたっている。20年の東京五輪招致が本格化する前に、暴力と決別する必要がある。

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