「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第20回】
最高の職場と、空気を読まない超優秀な先輩たち

奥村 隆 プロフィール

相手と論理的に話せば、圧倒的な結果が出る

 部長のFさんは報道記者の仕事が長く、20代の頃から何度もスクープを放ってきたという、いわばスター記者だった。社内だけでなく、社外のメディア関係者からも「伝説の人」などと呼ばれていた。

 こう聞くと、いかにも眼光鋭く、動作もテキパキと隙がない敏腕ジャーナリスト風の人物を想像するかもしれない。しかし、Fさんは一見、まったくそんなところがなかった。

 中肉中背で、二枚目でもなければ不細工でもなく、どことなくのんびりした感じで、穏やかに話す。所作もおっとりしている。常にスクープにぎらぎらと飢えている雰囲気もなく、最近の言葉だと「草食系」という印象だった。どこにでもいそうな、普通の中年のおじさんだったのだ。

 ところが、そのFさんの取材力は、若い頃から圧倒的なものだったという。他のマスコミの取材を受けない相手でも、彼が交渉すれば、どんどん出てきたり、話を聞かせてくれたりしたらしい。あるとき、Fさんは社の後輩からこう質問されたそうだ。

 「なぜFさんが取材を申し込むと、難攻不落だった人が次々と出てきてくれるんですか? どうしてスクープネタをあんなにたくさん出せるんですか? そうか、その辺は極意だから教えてもらえませんよね」

 「別に極意でも俺の企業秘密でも何でもない。当たり前のことをすればいいんだよ」

 Fさんは淡々と答えた。後輩はなおも食い下がって質問を続けた。

 「その『当たり前のこと』っていうのが何だかわからないんです」

 「相手と論理的に話をすることさ。俺はそれをいつも実行しているにすぎない」

 「相手の感情ではなくて、論理に訴えるということですか」

 「他の同業者がどうやって取材相手を口説いているのかは知らんよ。でも、俺は論理的に話すことしか考えていない。

 相手にとって、俺の取材に応えるメリットとデメリットは何か。両者を差し引きするとメリットの方が大きくなるのはなぜか。俺の取材に応えるとどういうことが起きて、そのメリットとデメリットは何か・・・。そういうことを細かく、丁寧に、整理しながら説明していけば、だいたい相手はわかってくれるものだ」

 「わかってくれなかったら?」

 「そりゃ仕方がない。諦めるしかない。俺だって、スクープを取れたことより取れなかったことの方が圧倒的に多いんだ。少し時間が経った頃にもう一度話をすれば、相手の状況も変わっているから、また可能性が出てくるよ。