雑誌
平成の大相場「4万円まで見えてきた」
デフレよ、さらば
エコノミスト・武者陵司

 日経平均株価が上がっていますが、これは日本経済が長期にわたって継続的に成長する歴史的転換点になると思っています。うまく転換できれば、日本経済は大きく復活して、株価はいずれバブル前の高値を更新する可能性があります。

 日本経済の長い停滞や、世界における日本の著しい地盤沈下を象徴する現象が「デフレ」です。円高や資産価格の下落、いろいろな原因があって日本経済はデフレに陥っていますが、それがこの国の病の深刻さを増幅しているのは間違いないことです。

 この問題に対処する方法として、安倍政権は「3本の矢」(金融緩和、財政出動、成長戦略)を打ち出しました。これは今のところ、パーフェクトに近い。

 公共投資を中心とした財政出動はあまり評判がよくないですが、短期的に財政供給によって需要を押し上げるという点については評価できます。もちろん、何でもばら撒けばいいというわけではありません。それでも今、日本経済が明らかに罹っている病に対し、それがネガティブに作用することはないのです。

 結果として景気が拡大すれば、増税によって財政再建が行われるという道筋もできている。楽観はできませんし、今のところこうした政策はスローガンとして打ち出されているだけで、すべては安倍政権の今後次第ではあります。ですがこうした政策全部がうまく行けば、日経平均はバブル期の最高値を超え、数年かけて4万円まで上昇することはあり得ると思います。

 そもそも、日本ではこれまで、デフレの原因を見誤っていました。よく言われるのが、技術革新による製造業の製品の値下がりとか、中国など海外から安い製品が輸入されるようになったからなどというものです。

 しかし、それが間違っている。技術革新や新興国からの製品流入は世界中で起きていることなのに、日本だけが、ずっとデフレに苦しんできました。その原因は、医療や教育費、娯楽費、観光費、不動産価格、家賃など、さまざまな「サービス価格」の低下にあります。

 先進国において、発展のためのもっとも重要なエンジンは、「インフレ」です。中でも、サービス産業がインフレの状態であることが、非常に重要になる。ところが日本では、ずっとそのサービス産業のデフレが続いてきました。

 たとえば、トヨタ自動車の社員の給料が、過去50年で20倍になったとします。一方、サービス業である理髪店の収入は、同様に比較するとだいたい18倍くらいになっている。

 製造業であるトヨタの場合、給料を20倍にできた理由は生産性の向上です。従業員一人あたりの生産台数がどんどん増え、生産性を上げることで製品の値上げを行わず、従業員の給料を上げることができた。

 ではトヨタほどではないにしろ、理髪店の収入も18倍になったのはなぜか。それは、理髪料が値上がり(=インフレ)したからです。

 サービス業は、製造業のように「生産性を向上」させるのは容易ではありません。丁寧な仕事をする理髪店なら、どんなに頑張っても一日のお客さんは20人くらいが限界で、それ以上、増やすことはできない。

 でも、だからといって腕の良い理容師の需要がなくなるわけではない。生産性の向上ができるかどうかと、世の中で必要とされるかどうかは関係がないのです。

 同じことは医療、教育、娯楽といったあらゆるサービス産業において言えます。どれも豊かな生活のためには必要になるものです。だからこそ、その分野の成長=サービス価格の値上げは、先進国では必須なのです。

みんなの給料を上げよう

 ところが、日本はそうではありませんでした。他の国は、どこもサービス業が需要を引っ張って成長をしてきましたが、日本だけはこの20年、サービス業が停滞し、賃金が下がり、経済成長を妨げてきた。

 一部の経済学者や識者は、「日本はサービス業の生産性が低い。だから生産性を上げろ」と言います。でも、世界を旅したことのある方々なら誰でも分かると思いますが、日本のホテルのサービス水準は、〝ベスト・イン・ザ・ワールド〟です。なのに値段が安いから儲からないし、生産性が低いということになる。サービス業を成長させるには、値段を上げること、つまりデフレを脱却してインフレにするしかないのです。

 そういう意味で、日本が復活する夢が絶たれる前に、安倍政権が誕生して人々の意識を劇的に変えつつあるのは意義があります。

 インフレ、デフレは、言ってみれば「給料が上がるか、下がるか」の違いなんですよ。インフレになれば給料は上がりますし、デフレでは下がる。「給料が下がっても物価も下がるんだから、デフレでいい」という意見もある。でもこれは大きな間違いなんです。

 デフレは不公平を助長します。物価が下がり、一般の給料が下がっても、公務員や一部の規制業種は、給料が下がりません。だから彼らはデフレでいいと考える。言わばゾンビです。デフレはその状態を固定し、既得権益を守り、成長のためのアクションを阻害してしまう。だからこそ、今は「これでいいんだ、仕方ないんだ」というようなデフレを容認する考えを改め、方向性を転換していかなければならない。

 そういう意味で、間もなく決まる日銀の次期総裁は、現状(デフレ)を容認するのではなく、それを良い方向に変えていく知恵と情熱を持った人がのぞましい。

 世界を見れば、経済も金融も、常に新しい方向に動いています。中央銀行の役割も変貌している。FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長やECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は、リスクを取る姿勢を示して市場の信任を得ています。金融は戦場です。ファイティング・スピリッツを世界に示し、マーケットの心理をガラッと変えられるような人材が、今は必要とされています。

むしゃ・りょうじ/'49年長野県生まれ。大和証券、大和総研、ドイツ証券チーフストラテジストなどを経て、現在ドイツ証券アドバイザー、株式会社武者リサーチ代表。主な著書に『「失われた20年」の終わり-地政学で診る日本経済-』(東洋経済新報社)など

「週刊現代」2013年3月9日号より

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