二宮清純 レポート
千葉ロッテマリーンズ角中勝也
大事な場面で結果を出す
この男は何を「持っている」のか

 昨年のパ・リーグ首位打者—男は、つい最近まで、近所の牛丼屋で誰にも声をかけられることなく夕食を摂ることが「日常」だった。でも、それはもう難しい。無名の男は今年きっとヒーローになる。

独立リーグで過ごした日々

「代打だけでなくスタメンの可能性もある。打球も鋭いし、それだけの魅力を持った選手」

 侍ジャパンの総帥・山本浩二は代表選出の理由を、そう語った。

 当落線上にいると見られていた昨季のパ・リーグ首位打者・角中勝也がWBC日本代表に選ばれた。

 山本は千葉ロッテのキャンプ地である沖縄・石垣島を訪れた際にも、角中のフリー打撃を熱心に視察し、次のようなコメントを残した。

「左ピッチャーを苦にしないし、追い込まれてからの粘りは高く評価している。勝負どころでの代打の切り札というのも、当然あるだろう」

 これを受けて、角中は語った。

「プレッシャーを感じるタイプじゃない。(昨季の)第1打席の打率(3割5分7厘)もそこそこだし、不安はない」

 この1月、「もし代表に選ばれたら?」という私の質問に、角中はきっぱりと言い切った。

「ベンチにいるだけじゃなく、出たいって気持ちの方が強いですね」

 この男、口数は少ないが秘めたる思いは熱い。最近では珍しくなった不言実行を地で行くタイプだ。

 独立リーグ出身初の日本代表選手である。野球の底辺から這い上がってきた。

 日本で初めてのプロ野球独立リーグ「四国アイランドリーグ」が誕生したのは2005年の春だ。

 孤軍奮闘でリーグを立ち上げたのは西武などで活躍し、オリックスで監督も務めた石毛宏典である。

 石毛は現役引退後、コーチ留学のため渡米した。そこで目のあたりにしたのがワラにもすがる思いでトライアウトを受けにくる日本人の若者の姿だった。

「彼らは言葉も話せず、お金も持たずにやってきて最後は不合格になって帰っていく。日本にアメリカのような独立リーグがあれば、行き場のない選手を少しは救えるはず。それが独立リーグを立ち上げようとしたきっかけでした」