雑誌
ネコ男の逮捕 PCなりすまし事件冤罪だったら刑事も記者も全員クビです
魚住昭×青木理

お前ら、犬か?警察のリークをたれ流す記者たちへ

 逮捕以降、一貫して否認を続ける容疑者。弁護人には冤罪事件の専門家が選任された。事件の背景にはどんな問題点があるのか。報道を熟知するジャーナリストが警察とメディアの"共犯関係"を語る。

決定的証拠は幻だった

魚住 容疑者の逮捕をきっかけに、メディアは連日のように「PCなりすまし事件」を報じてきましたが、ここへきて冤罪の疑いも出てきました。

 これまで、容疑者が江の島にいるネコに首輪を取り付けている画像が決定的証拠だと言われてきた。しかし、容疑者の担当弁護士によれば、警察はその証拠を容疑者に見せないばかりか、その情報は「新聞が勝手に書いた」などと弁解しているようです(4ページ記事参照)。

青木 ひょっとすれば、裁判まで『隠し球』として取っておくつもりかもしれませんね。

魚住 ただ、少なくとも今の段階では、容疑者はやっていない可能性があるという前提に立って報道をしなければならないはずです。しかし、記者たちは容疑者を真犯人と決めつけて、逮捕前の私生活を含め、プライバシーを報じている。

青木 僕が疑問に思うのは、そもそもこの事件はここまで大きく報じるべきネタなのか、ということです。威力業務妨害なんて、言い方は悪いですが、それほど大きな犯罪ではない。この事件で出た一番の被害者は、警察による「誤認逮捕」の被害者なんですから。それにもかかわらず新聞が軒並み1面トップで報じたのは、この事件が『劇場型犯罪』だったからでしょう。

 特に真犯人と思われる人物から、警察をあざ笑うようなメールが報道機関に送りつけられた。その一方で警察は立て続けに4件も誤認逮捕してしまった。こうした背景があったから、大きく報じられることになったわけですが、だからこそ、マスコミも警察も、もっと慎重になるべきではないでしょうか。

魚住 他社に先駆けて、読売新聞が2月10日付朝刊1面トップで第一報を打ったというのも、報道が加速した一因でしょう。私にも経験がありますが、マスコミというのは他社に『抜かれる』と、遅れてはならじと一気に過熱します。

 でも、そんな状況が一番、誤報が生まれやすいんです。抜かれた社は焦って、失地回復するために、それが真偽のあやふやな『飛ばしネタ』であっても確定事実のように書いてしまう。

青木 書くネタがあるかどうかにかかわらず、その日の掲載予定に入れられてしまいますからね。今回で言えば、「PCなりすまし事件続報」という枠だけは用意されている。何か書かなければいけないから、ひたすら捜査関係者の夜回りをして得た情報を朝刊に書き、少し寝たら今度は夕刊のネタを探す。そんな生活が1週間くらい続きます。その結果、多少荒い情報でも書き飛ばしてしまう。テレビも似たような状況でしょう。

 超大型の事件になれば、現場の記者は昨日や一昨日の記事との整合性なんて言っていられない。私が共同通信にいた頃、上司から「犯人の逮捕後にウチの記事を読み返してみると、単独犯のはずなのに、犯人は少なくとも3人はいるように思える」なんて言われたこともあります(笑)。

魚住 今のような状況は、警察にとっては非常に都合がいいパターンなんです。どこかがバーンと書いて、抜かれた他社が焦ったところで、情報を小出しにして書かせる。どんどん続報を書かせることで、警察はメディアとの噦共犯関係器を築くことができる。仮に今回の容疑者が真犯人でなくても、捜査当局の情報に拠って報じてしまった以上、メディアも警察を批判しづらくなりますから。

青木 とりわけ、最近は警察と民放の噦共犯関係器が強まっていますね。昼のニュースを見ると、ほとんど警察発のニュースですよ。それも、違法アダルトDVD業者の家宅捜索をした模様とか、容疑者が連行される様子を撮影した映像を流す。新聞であればせいぜいベタ記事扱いの事件でも、テレビは『画』があれば放送する。撮ったほうとしては「特ダネ」だし、撮られた警察もニュースにしてもらって手柄になるという関係が出来上がっています。

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