オリンピック
卓球・水谷隼「不正ラバーには絶対負けない」〜打倒中国へ国際大会復帰
みずたに・じゅん 1989年、静岡県磐田市生まれ。両親の影響を受け、5歳から卓球を始める。青森山田高校在学中の'05年に15歳10ヵ月の史上最年少(当時)で世界選手権代表に。五輪は北京、ロンドンと2大会連続で出場中〔PHOTO〕濱﨑慎治

「反発は予想以上でした。『オリンピックで負けた言い訳だ』とか、『感謝の気持ちが足りない』とか、きついこともたくさん言われました。相当しんどかった。敵1人って味方100人分くらいの力がありますからね(苦笑)。でも、そんなとき、外国の多くの選手から『早く国際舞台に戻ってきてほしい』と言われて、気持ちがすっきりしました。結局、ほとんどの選手が僕の告発を知らないんです。僕一人の力では、目の前の壁はあまりに大きすぎました」

 選手生命をかけて「補助剤」問題を告発した日本男子卓球界のエース・水谷隼(23)がワールドツアー・クウェートオープンに参戦。半年ぶりに国際舞台に戻ってきた。しかし、2月上旬、都内の練習場に現れた水谷の表情は複雑だった。

 史上最年少の17歳で全日本王者に輝いて以降、破竹の5連覇。名実ともに日本男子卓球界の頂点に立つ水谷が、突然の「告発」を行ってから3ヵ月以上が経ったが、卓球界は表面上、さざ波すら立たず静かなままだ。

 水谷は『Number』( '12年11月8日号)のインタビューで、「選手生命をかけて卓球界に横行している不正行為と戦っていきたい」と宣言。卓球のラケットのラバーに塗る溶剤として用いられる「補助剤」が不正に使われている実態を明らかにし、ルールが厳格化されるまで国際試合から撤退する意思を示したのだ。

「補助剤を塗ればラバーの反発力は増し、打球のスピードは段違いに速くなります。実際に打ってみると球が浮き上がるように感じられ、ラリーをしていると、どんどん加速していくような感覚です。塗れば塗るほど威力が増して、上のほうに飛んでいくイメージですね」(水谷)

 そもそも、 '08年の北京五輪までは、日本人を含めたほとんどの選手がラケットとラバーの接着に「スピードグルー」という接着剤を使っていた。しかしグルーは揮発性の高い引火性溶剤で、人体への影響が懸念されていたため、ITTF(国際卓球連盟)が '08年9月1日に全面禁止を決定。その際、ラバーに接着剤や接着シート以外の付加的な処理をする、いわゆる「後加工」も禁止するというルールを付け加えたのである。

 しかし、水谷によると、中国を中心とした外国人選手はグルーに代えてラケットの反発力を強くする「補助剤」を現在も公然と使用しているという。

「グルーは揮発性溶剤だったためシンナーのような強烈な臭いがしました。違反溶剤の検査機は臭いを感知する機械ですが、『補助剤』はほとんど無臭で感知できません。つまりいまの検査態勢だと違反を取り締まれないのです。だから、外国人選手たちは違反だと分かっていながら補助剤を使い続けているのです。僕は '09年からずっと補助剤の使用禁止を訴え続けてきました。しかし、結局ロンドン五輪でも放置されたままでした」