[自転車競技]
白戸太朗「日本人が世界に勝つためには?」

筆者<左>がMCを務めたセミナーの様子

 2月のある日、日本自転車普及協会にて、「日本人がツール・ド・フランスに勝つためには」という題目の自転車セミナーが開催された。これが5年前なら、「日本人がツール・ド・フランスに出るには」となっていたところだ。それほどここ数年の日本人選手の活躍は目覚ましく、我々の常識を打ち破ってくれているということだろう。そんな少々、上段から構えたセミナーではあったが、その内容は講師が自転車競技の最前線で活躍しているエキップアサダ監督兼代表の浅田顕氏、宇都宮ブリッツェン監督の栗村修氏ということもあり、なかなか興味深いものだった。

「才能のある選手をどうやって見つけ出すか? そのスカウティングシステムを確立していく必要があるのではないか?」と投げかけたのは栗村氏。「皆、ヨーロッパの選手は強いと思っている。もちろん強い選手も沢山いるが、それ以上に弱い選手も沢山いる。僕がフランスのJr.カテゴリーで走っていた頃、僕でも勝てる選手が沢山いて驚いた。そこで強い奴だけが次のカテゴリーに進み、さらにそのカテゴリーで強い奴がプロになるんです。だから強くなる可能性のある選手を早めに拾い上げてあげることが大切」。なるほど、長い歴史の中で出来上がっているヨーロッパの選手育成システムだ。

ロードレース界のグローバル化

「その反面、自転車大国と言われるフランスでは、ここ30年以上もツールで勝てないというジレンマもあります。それは新興国と言われる、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの台頭が要因。彼らは伝統を重んじるだけではなく、最新の科学と独自の研究方法でアプローチし、確実に結果を残してきました」。これは隠しようもない事実で、新興国の強化方式は斬新で良く研究されているものが多い。また、10年前まではフランス語が公用語と言われていた自転車界で、このところ英語が公用語になりつつあるのも、その勢いを象徴している。まさにロードレース界のグローバル化なのかもしれない。

「ですから、我々はフランス、イタリアなどの伝統と、新興国の研究、このどちらも学んでいく必要があります。更に日本は後発であるのだから、そのすべての経験を学ぶ必要がある」とは浅田氏。常にヨーロッパで活動している彼の言葉にはリアリティがある。「そのためにも、やはりヨーロッパに基盤を置いた活動が必要。残念ながら日本では学べないことが沢山あるのも事実で、その落差を早いうちに経験し、様々なことを習得しておくことが必要です。そして、自転車界は新興国の台頭もあり日進月歩で進化している。その動きに遅れないためにも現地での活動が欠かせない」。確かに日本選手が世界の舞台で活躍できるようになったとはいえ、その日本選手たちはヨーロッパで鍛えられた選手ばかり。まだまだ「ヨーロッパのレースと、日本のレースは違う」という状況は変わっていない。

 ロードレースはチームで戦うため、チームとしての戦略も必要ではないかという問いかけに、「現在、僕が監督を務める宇都宮ブリッツェンで、年間予算は5千万円。浅田さんが最も資金を集めた年のエキップアサダで1億円弱。一方、ツールで戦うチームの予算は10億円が通常で、勝つチームは30億円程度の予算をもって活動しています」と栗村氏。うーん、大人と子供の喧嘩のような予算額。これでは戦う前から結果は見えているか。

「だから日本国内で競い合うのはもちろんだけど、世界に挑むときには日本代表のような考え方が必要。ナショナルスポンサーが代表チームを支援し、そこに優秀な選手たちを集めてヨーロッパの舞台で戦わせる。1チーム単位で戦っていては到底届かない」。この栗村氏の発言に浅田氏も同調する。巨人を倒すのに、小人が1人ずつとびかかっていても崩せないということだ。確かに、日本にも優秀な選手はもちろん、指導者やチームスタッフなどでも世界に出ても通用する人材は出てきている。しかし、それがあちこちに散らばり、日本としてのチーム力が分散化しているのだ。これを集めて送り出せればチャンスはあるのかもしれない。実際、その方式でオーストラリアなどの新興国は活路を見出した。