読書人の雑誌『本』
「とうざい」著:田牧大和
物書きの知りたいこと

 物語を書くための取材をしたのは、四年前だ。文楽の大阪公演中に、義太夫、三味線、人形遣いの技芸員、おひとりずつから話を伺えることになったのだ。「生まれて初めての一人旅」で、「文楽観劇キャリアがまだ浅いままの単独取材」である。とはいえ、日頃大変お世話になっている方が、日程調整から相手方との折衝まで、万事コーディネートしてくださったので、私は宿泊や取材当日の準備など、自分の世話だけすればいい、恵まれた取材旅行だ。

 前日大阪入りして文楽公演を観劇後、翌日から二日かけて三人の方に取材という、二泊三日のスケジュール。せっかくなので、取材が終了したら大阪の親戚宅に一泊、さらに京都で一泊してのんびり観光、というオプションを追加。仕事なんだか遊びなんだか、よく分からない旅となった。

 大阪に着き、開演まで時間があったので「海遊館」へ行くことに。ホテルの受付で「海遊館」へのアクセスを伺ったところ、とても感じのいい女性が、てきぱきと案内してくれた。ついでに「国立文楽劇場」への行き方も確かめたのだが、その女性は顔を曇らせ、

「ええと、国立、ぶんらく、劇場、でございますか・・・・・・?」

 結局その方は、場所も「国立ぶんらく劇場」とやらが何をするところかも、ご存じないらしく、いったん退却。代わって登場した古強者らしき男性スタッフが、説明してくださった。確かに、大阪は東京程文楽の人気はない、と聞いてはいた。けれど、これから人形浄瑠璃の物語を書こうと気合を入れている者としては、文楽本拠地であるはずの大阪で遭遇した、少しばかり切ない出来事だった。

 文楽に対する(東京対大阪然り、対「海遊館」然り)温度差はさておき。

 そもそも取材のお話を頂く前から、江戸を舞台にした人形浄瑠璃の物語は、舞台設定や主要登場人物の輪郭、大まかな話の流れなど、ぼんやりではあるが出来上がっていた。

 また、文楽関係者による講演会や初心者向け勉強会の折、お話を伺う機会にも既に幾度か恵まれていた。

 その折に痛感したのは、「嚙み合わなさ」だ。

 
◆ 内容紹介
柄は大きいが気は小さい、若き紋下太夫の竹本雲雀太夫。二枚目役者も裸足で逃げ出す色男、「氷の八十次」こと人形遣いの吉田八十次郎。江戸で流行りの人形浄瑠璃、木挽町は松輪座に、今日も舞い込む難事件。 人形浄瑠璃に人生をかける男たち。とびきりの「芸」で綴る、笑いと涙のお江戸文楽ミステリー! 「濱次お役者双六」シリーズで話題の著者、田牧大和の新境地!