情報を漏らした人は「無罪」なのに、取引した人が「有罪」になる!? 日興証券インサイダー事件で裁判官が出した「前代未聞の判断」

 横浜地裁の朝山芳史裁判長が、判決日に訴因(起訴内容)の変更を求めるという前代未聞の裁判は、延期の末、2月28日、判決が言い渡される。

 その結果もさることながら、SMBC日興証券(日興証券)が担当した株式公開買い付け(TOB)をめぐる今回のインサイダー取引事件の公判が注目されるのは、刑事司法の変化を象徴しているからだ。

訴因を変更しなければ判決文が書けない事態

〔PHOTO〕gettyimages

 事件は、至ってシンプルである。

 三井住友銀行の幹部行員を経て日興証券の執行役員となっていた吉岡宏芳被告が、未公表のTOB情報を入手できる立場であったことを利用。重要顧客で韓国籍の加藤(金)次成被告に情報を伝え、そのインサイダー情報をもとに加藤被告が、3社の株を購入。TOB公表直後に売り抜けて、約3,600万円の利益を得たーーというものだ。

 金融商品取引法は、未公表の情報を立場上知った「TOB関係者」と、その人間から情報を入手した「第1次情報受領者」が、公表前に該当株を売買することを禁じている。横浜地検はこの法律に基づいて、「TOB関係者」である吉岡被告と「第1次情報受領者」の加藤被告が共謀、インサイダー取引を行ったという事件構図を描いた。

 複雑となった原因は、吉岡被告が捜査段階から全面否認であったこと。それに対して加藤被告は、捜査段階で「インサイダー取引をやりました」と自供、公判でも有罪を覚悟、主張を変えなかった。

 検察は、「加藤証言」をもとに吉岡被告の否認をひっくり返せると思っていた。吉岡被告には、自らのインサイダー情報で株を売買した形跡はなく、利益を得た加藤被告からキックバックを受けていた事実もなかった。ただ、吉岡被告は銀行員時代から加藤被告に融資を仲介、巨額の焦げ付きとなって加藤被告に迷惑をかけたとする各種証言があった。

 「紹介融資」についても吉岡被告は否認していたが、検察は、「銀行では融資できないリスキーな客を紹介、損害を出させて迷惑をかけた加藤被告に、インサイダー情報を流して儲けさせた」という事件構図を描き、裁判所を十分に納得させられると判断した。

 しかし、朝山裁判長は納得しなかった。公判に出された証拠と証言では、吉岡被告を罪に問えなかった。

 無罪を主張する吉岡被告の公判と、自供している加藤被告の公判は分かれているから、吉岡被告に対する判断はまだ先だ。しかし朝山裁判長は両方の公判を担当しており、とりあえず吉岡被告に「無罪判断」を下し、同被告を共同正犯に問えない以上、「起訴内容を変更しなければ加藤被告の判決文が書けない」と、検察に指示したのである。

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