読書人の雑誌『本』

「韓国のグローバル人材育成力 超競争社会の真実」著:岩渕秀樹
ルック・ウェスト!

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 さらに取材過程で感じたことの一つは、韓国の情報インフラである。過去の新聞記事は一九二〇年以降のものがウェブ上にアーカイブされ、無料でアクセスできる。政府の統計データ、法令、報告書等の文書のウェブ上での公開度も高い。政治・行政や大学などに所属する公人は、メールアドレスも大抵公開されておりコンタクトも容易である。人脈を活用し、集団による戦略的行動を可能とするためには、こうした情報インフラは不可欠だろう。

 さて、情の篤い韓国人への取材結果をまとめてみたが、最後に一つ問題が発生した。書きたての現代新書の原稿を試読した知人から、著しく官僚臭がする文章だと駄目出しされたのだ。読み返すと、確かに文面に官僚色が顕著である。官僚は公僕であり、政治的意思に従った形で、その意思を具現化するために働く。自らの価値判断を表に出すのはタブーである。無意識の中で、直接話法が間接話法に、能動態が受動態に、断定調が婉曲になっていたのだ。

 職業病は恐ろしい。自分自身が何を考え、何を伝えたいのか、そうした主体性が官僚生活の中で失われていたようだ。予期せず自己を見直す貴重な機会となった。

(いわぶち・ひでき 文部科学省課長補佐・九州大学韓国研究センター学術共同研究員)

 
◆ 内容紹介
サムスン、LG、現代など、2000年代以降の韓国企業の世界市場での躍進の背景には、国をあげてのグローバル人材育成があった。 その人材育成の現場を在韓国日本大使館・初代科学技術担当一等書記官が徹底的に取材、実態を探る。
 
岩渕秀樹(いわぶち・ひでき)
神奈川県平塚市出身。東京工業大学理学部卒業、同大学院修了(修士〔理工学〕)、南デンマーク大学修了(経営学修士)。在韓国日本大使館経済部一等書記官として2007年から約3年間、韓国に駐在。現在、文部科学省科学技術・学術政策局政策課長補佐、九州大学韓国研究センター学術共同研究員等を務める。共著に『グローバル競争を勝ち抜く韓国の科学技術』(丸善プラネット)がある。
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