「韓国のグローバル人材育成力 超競争社会の真実」著:岩渕秀樹
ルック・ウェスト!

 このような韓国分析の一助とするべく、この度、講談社現代新書において『韓国のグローバル人材育成力―超競争社会の真実』を上梓する機会を頂いた。一九八〇年代の言葉をもじれば、さしずめ「ルック・ウェスト」のための書である。

 筆者は、在韓国日本大使館に初代の科学技術担当書記官として勤務(二〇〇七~一〇年)したことがあり、その経験を踏まえた内容で、という出版計画となった。しかし、大使館勤務時代に得た情報の多くは、外交機密に属する恐れがある。守秘義務を遵守すべき国家公務員の立場をわきまえ、出版に当たっては、一から取材し直すこととした。外交官という公的な立場がある時は、外交儀礼もあってか緊密な人間関係を築かせて頂いた韓国の要人に、私的な出版の取材で再会できるか一抹の不安もあった。

 しかし、幸運なことに、これは杞憂に終わった。二〇一二年一二月の大統領選挙で当選した朴槿恵氏の側近国会議員から、大統領府、外交通商省などの高官まで、旧知の多くの方に快く時間を割いて頂いた。人的ネットワークを大切にし、周囲の者を放っておけない「情に篤い」韓国人気質は、チームワークの発揮、集団による戦略的行動に強みをもたらすと新書にも取り上げたが、図らずもこれを実感する取材となった。

 韓国の国際競争力の根元にある人材育成力を探る企画であるため、現場主義の取材に徹し、幼稚園経営者、小学校や高校の教職員、大学教授、大企業の人事担当者など、人材育成に携わる様々な方にお会いした。そこで共通して感じたのは、自分の仕事への強い自負心である。高校の職員室に電話して唐突に取材申請をしたりしたが、快く取材にOKが出た。

 自分の仕事に関心をもって取材したいという外国人(筆者)に対し、それが韓国社会でいかに重要な仕事なのか話そうと、皆、意欲満々なのだ。前向きなメンタリティ、強い自負心、そうしたことに違和感さえ覚えたのは、今日の日本にそれらが欠けているためかもしれない。

 外交官として職業上接触があったのはシニア層が大半であった。今回は、新書のテーマの関係上、韓国の若者たちの声を多く取材したが、率直に言って、一九八〇年代生まれの彼らの洗練された言動には驚かされた。彼らは、生まれてから「民主主義による統治と豊かな経済」の韓国しか知らない最初の世代であり、青春時代にワールドカップサッカーで韓国代表がベスト4入りした成功体験をもつ。 

 シニアな韓国人は、日本への関心が良くも悪くも高く、特別な思いもあるので、日韓関係、日韓比較に関する会話は深まるが、微妙な問題に入り込むこともある。しかし、若い世代は異なる。日本人に対して屈託がない、というか世界約二〇〇ヵ国の一国としてしか日本を見ていない。普通の「外国人」として肩の凝らない会話ができて良いが、何か一抹の寂しさも覚える。

 社会経済への関心の高さ、英語力・プレゼンテーション能力など非常に洗練されている韓国の若者たちだが、「超競争社会」の中で悪戦苦闘している。これだけ優秀な学生なら、日本ではグローバル人材として高く評価されると思うが、彼らを待ち受けているのは、終わりの見えない就職浪人生活である。競争の激しさゆえ努力を怠らない姿は美しいが、過度な競争で貴重な若い時代を無駄にしているとも言える。「超競争社会」には功罪があろう。