読書人の雑誌『本』
「おどろきの中国」 著:橋爪大三郎
中国のどこが「おどろき」か

 初めて中国を訪れたのは、一九八八年の夏。いま思えば、絶妙のタイミングだった。

 当時わたしは、本を何冊か書いたものの相変わらずのオーバードクターで、くさっているようにみえたのだろう。友人の落合仁司、落合恵美子夫妻が、学生を連れて行くから、一緒に上海に行こうよと誘ってくれた。二月に行く予定が、上海ガニの食中毒が起こって八月に延期に。半年ほど時間がある。せっかくだから中国語が話せたら面白いかもと、中国語会話学校に通うことにした。這個多少銭(これいくらですか)、が言えるようになった。

 上海に三十人ほどで一ヵ月短期留学し、北京大学にも一週間滞在した。改革開放のすさまじいエネルギーに圧倒された。北京では何かが起こりそうな熱気を感じた。翌年六月の天安門事件はだから、人ごとではなかった。

 帰国すると、細川周平さんが、蘇越さんという作曲家を紹介してくれた。中国で聴いたヒット曲「黄土高坡」を作曲した当人だったので、意気投合した。蘇越さん夫妻の紹介で知り合った張静華と結婚することになったのだから、世の中なにがあるかわからない。

 張静華は天津出身だったので、天津に行く機会が多くなった。天津社会科学院の王輝院長(社会学)と知り合い、共同研究をした。王輝院長は、解放直後から文化大革命の後までずっと天津市政府で仕事をしてきた中国共産党の幹部で、中国の事情に詳しい。

 王輝院長をはじめ、金観濤、胡鞍鋼、孫津、朱鋒、薛瀾、王名、・・・・・・といった中国の著名な学者たちと交流してみると、メディアが伝える中国像とまったく違った印象を受ける。日本人は根本のところで、中国を読み解くカギを手に入れそこなっているのではないか。

 家族が中国人だと「あれ、今日は日本語をひとことも話してないなあ」という具合に、頭の中が中国語になってしまう。中国は、わたしの隠れ副専門になった。王輝院長の『中国官僚天国』を翻訳した。中国のロックシンガー崔健(ツイ・ジエン)のインタヴュー本『崔健』を書いた。中国の学者との対談や論考をまとめた『隣りのチャイナ』を書いた。

 胡鞍鋼教授の論文集『かくて中国はアメリカを追い抜く』を編集した。エズラ・ヴォーゲル教授との対談『ヴォーゲル、日本とアジアを語る』をまとめた。中国人留学生の論文指導も数多い。

 
◆ 内容紹介
中国はそもそも「国家」なのか? 2000年以上前に統一できたのはなぜか? 毛沢東の権力とはいかなるものだったか? 冷戦が終わっても共産党支配が崩れなかった理由とは? 中国は21世紀の覇権国になるのか? 対症療法ではない視座を求めて、日本を代表する知性が徹底討論。真に中国を理解するための必読書!