安倍総理の現時点での外交は評価できますか?--「スタートはうまくいっていると思うが、尖閣問題の対応には不安」
佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol.007 質疑応答より
【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.007 目次】
―第1部― インテリジェンス・レポート
 ■分析メモ(No.15)「中国海軍軍艦による海上自衛隊護衛艦等に対する火器管制レーダーの照射」
 ■分析メモ(No.16)「日米同盟に亀裂を走らせるF35問題」
―第2部― 読書ノート
 ■「日本の回転ドア政治を打開するには――重要なのは経済だ」
 ■『「データ」で読み解く 安倍政権でこうなる!日本経済』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 佐藤優さんの今後の予定(3月初旬まで)

質問:安倍総理の現時点での外交は評価できますか

安倍総理の現時点での外交は評価できますか?

 最初の外遊先として、東南アジアを巡ったことは、中国に対しての大きな牽制にはなったと思います。また、本日(1月20日)の日本経済新聞によると、「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲である」とクリントン国務長官からの明言がありました。分析メモ(No10)の2-(3)の外交戦略が機能しているように見受けられます。

【佐藤優さんの回答】安倍外交のスタートは、うまくいっていると思います。「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲である」とクリントン国務長官から言質をとったことも意味があります。もっともこれは、民主党の前原誠司さんが外相のときにとった成果です。それを踏襲した意味はあります。

 他方、尖閣問題をめぐる外務省の対応には不安があります。1月18日に米国ワシントンで行われた日米外相会談によって、尖閣諸島問題に関する米中間の「レッドライン」が定まりそうになっていることです(ここを踏み越えたら、事態が根本的に変化する境界線が「レッドライン」)。18日午後(日本時間19日未明)、米国のワシントンにおける日米首脳会談に関し、

<クリントン長官は沖縄県・尖閣諸島をめぐって、中国が公船や軍用機による領海侵犯など挑発行為を活発化させていることについて、「日本の安全を脅かすいかなる一方的な行為にも反対する」との考えを表明し、岸田外相は米国の姿勢を評価した。(中略)クリントン長官は、「日本の施政権下にある尖閣諸島が、米国による日本防衛義務を定めた日米安保条約の適用対象である」と重ねて強調。米政府として、中国の挑発行為に反対する姿勢を初めて明確に示した>(1月19日MSN産経ニュース)

 と報じられています。

 外務省は、クリントン発言を最大限に活用して、尖閣問題に関し、米国が一歩踏み込んで日本寄りの姿勢を示したという印象を世論に焼き付けようと腐心しています。しかし、「尖閣諸島に対する日本の施政権を維持する」という内容が、米国が中国に提示する「レッドライン」になることは、日本にとって不利です。なぜなら、日本にとって重要なのは、尖閣諸島の主権が日本に帰属することを国際社会に承認させることだからです。

 1972年に日本に復帰する前の沖縄は、米国の施政権下に置かれていました。沖縄では米ドルが流通し、裁判権も米軍政府が握っていました。しかし、沖縄が米国領になったわけではありません。潜在主権は日本に属するという整理がなされていました。

 図式的に整理すると完全な主権は、潜在主権と施政権によって構成されます。米国が尖閣諸島に対する日本の施政権をどれだけ強く支持しても、主権(もしくは潜在主権)については中立的立場をとっているという現状は、今回の日米外相会談によっても小指の先程も変化していません。

 外務省はきわめて政治的な役所なので、民主党政権時代に、当時の権力者にすり寄ることで登用された一部の外務省幹部が、自公政権になって日米同盟が深化しているという「政策広報」(よりはっきり言うならば情報操作)を行うことで、自らの生き残りを画策していると私は見ています。外務省が日米同盟を本気で深化させようと考えているならば、「尖閣諸島の主権は日本に属する」というわが国の立場を米国に明示的に認めさせる外交努力をするべきです。

 どうも河相周夫外務事務次官の指導下にある外務省は、尖閣諸島に対する日本の立場を米国に認めさせることを初めからあきらめてしまっているようです。日本の施政権に手をつけないことが米国の「レッドライン」であるという認識を中国が抱くと、今後、面倒なことになります。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら