金持ちアップルの憂鬱

Apple CEO Tim Cook 〔PHOTO〕gettyimages

 「アップルが腕時計型モバイル端末の開発に着手したようだ」---そんな観測記事が今週、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなど米国の主要メディアで報じられた。もし本当なら画期的な端末となることは間違いないが、まだ噂段階なので、「それが、どのような製品になるか」といったことを予想しても大した意味はないだろう。

 むしろ、それより興味深いことは「何故、今、こうした報道が為されたか?」ということだ。これについて一部のアップル・ウォッチャーは、「同社が敢えて、米メディアに社内情報をリークした」と見ている。それは「アップルには画期的な製品を開発する能力が残されている」ということを、メディアを使って宣伝したいからだという。恐らく、この見方は正しい。

とても怖い「モノ言う株主」がアップルに圧力

 背景には、アップルとその大株主との間の摩擦がある。先週、「Greenlight Capital」というヘッジファンドを率いるDavid Einhorn氏が、マンハッタン連邦地裁にアップルを提訴した。同氏はヘッジファンド業界の大物で、いわゆる「モノ言う株主」としても知られる。2011年には、マイクロソフトCEO(最高経営責任者)のスティーブ・バルマー氏に退任を迫ったこともある。要するにIT業界内では、とても恐れられている存在だ。個人的にも大変な金持ちで、ポーカーの試合で百万ドルをかけたこともあるという。

 今回、Einhorn氏がアップルを訴えた理由は、同社がためこんだ現金と株式配当を巡る争いだ。現在、アップルが保有している現金は1,370億ドル(12兆円余り)に達し、四半期ごとに、さらに数百億ドル(数兆円)が積みあがっていく。要するに、手元に金があり余ってしょうがない状況なのだ。が、(よく知られていることだが)これだけの現金を蓄えながら、これまでアップルは株主に配当を出さなかった。

 それはかつてのCEO、スティーブ・ジョブズ氏が「配当を出すよりも、そのお金を技術開発費に充てて会社を成長させたほうがいい」と考えていたからだ。実際、ジョブズ氏の指揮のもと、同社は次々と画期的な新製品を開発して売上を伸ばし、それに乗って株価も急上昇した。このためアップルの株主達は無配当に文句をつけるどころか、そうしたジョブズ氏の経営方針を高く評価した。

 ところがティム・クック氏がCEOになると、この潮目が変わった。同氏は昨年3月に「株式配当を開始する」と発表した(正確には「開始」ではなく「再開」。かなり以前にはやっていたようだ)。ただし、それは普通の会社がやるような定期的な配当ではなく、「今後3年間に渡って総額450億ドルを株主に配当する」という、言わば一時金のような形だった。

 当初、これは株主から評価された。それはそうだろう。全く配当金を貰えないよりは、たとえ一時金でも貰えたほうがいい。ところが、その後、アップルの株価が頭打ちになり、やがてどんどん下降し始めると株主からの圧力が高まり始めた。彼らは「手元にある現金をもっと有効に使え」と言い始めた。最も望ましいのは、研究開発にどんどんお金を使って、驚くべき新製品を次々と出して、昔のような成長軌道に戻ることだ。

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