佐渡の"おふくろの味"「かあちゃん漬」が抱える2つの高齢化問題 ~農林漁業「6次産業化」の現場レポート

 農産物などの1次産品をそのまま販売するのではなく、加工(2次産業)したり、直接販売(3次産業)することによって付加価値を高めていこうとする「6次産業化(=1次+2次+3次)」の取り組みを追う現場リポート。今回は30年近く続く"6次産業化の元祖"とも呼べるような事例を紹介しよう。

 新潟県佐渡で評判の漬物がある。島が大きくくびれた中央部分に広がる国仲平野の真ん中、金井地区の農村女性グループが30年近くにわたって作り続けている「かあちゃん漬」がそれだ。メンバーの農家で栽培・収穫した野菜を、添加物を一切加えずに昔ながらの方法で漬け込む。学校給食に使われるほか、農協系スーパーのJコープや一部の特産品店で売られているだけで、ほぼ全量が"島内消費"されてしまう。

 一番の売り物は年に1300キロも漬けるという梅干。代々受け継がれてきた作り方で、「3日3晩干す」ところから手間ひまを惜しまず漬けている。このほか、はりはり漬けや福神漬け、みそ漬け、粕漬けなど常時7~8種類の漬物を製造している。さらに、かあちゃんたちが「世界で一番おいしい」と口をそろえる味噌も作っている。この漬物や味噌の味に親しんで成人した人も多く、今や佐渡全体の「おふくろの味」になっている。

材料の確保と設備投資の資金回収が課題

 メンバーは40人ほど。漬物グループと味噌グループに分かれているが、作業場にいつも集まって来るのは15人あまり。メンバーから梅や野菜など漬物の原材料を買い取っているほか、作業場での漬け込みやパック詰めの作業には550円の時給が支払われる。それでも「おカネ儲けが本当の目的ではない」とリーダーの野田栄子さんは笑う。作業の合間にお茶を飲みながら世間話に花を咲かせるのが、メンバーの何よりの楽しみなのだ。

 野田さんは79歳。他のメンバーもほとんどが70代である。時給は安いが、「それでも万札が入っていることもあって励みになるっちゃ」と、かあちゃんたちは屈託ない。

 この「かあちゃん漬」、実は最近、2つの危機に見舞われた。

 1つはメンバーの高齢化。梅干しの運搬や漬け込みなど、力仕事も少なくない。原料の野菜にしても、もともとは自分たちの畑で作ったものの市場に出荷できない規格外のものを漬物用に回していた。いわば農家のおかあちゃんたちの副業だったのだが、高齢化と共に、農作業自体に携わる人が減り、漬物の材料が集まらなくなってきているというのだ。梅にしても材料の確保が最大の課題になっているという。

 6次産業化の旗を振る佐渡市役所は、「かあちゃん漬」の商品には十分な競争力があり、島外での販売拡大も夢ではないと見ている。だが、メンバーの高齢化によって生産の拡大がなかなか難しいという問題に直面している。売れるかどうかよりも、作れるかどうかの方に問題があるのだ。

 高齢化が進めば、後を継ぐ人もいなくなる。この後継者問題は、口コミなどによって60歳代の新人メンバーが加わったことで、どうにか一息付いたという。だが、問題はそれだけではない。

 もう1つの危機とは、設備の"高齢化"だ。

 つい数ヵ月前のこと、漬物を真空パックにする包装機械が突然、動かなくなった。機械メーカーに相談したところ、モーターが完全にダメになっていたら交換修理代は70万円にはなる、という話だった。

 漬物1袋を250円で販売している"零細企業"にとって、事業収益から70万円を出す余裕などない。かといって借金をして設備投資しても資金を回収できるメドは立たない。

 結局、応急修理でモーターは何とか動いたが、いずれ機械の寿命は尽きる。もちろん真空パックができなければ、かあちゃん漬は即廃業になる。零細事業とはいえ、梅干だけでも1500パックを製造・出荷し、30年の歴史を持つ、その伝統を途絶えさせてしまうのは誰しも惜しいと思うに違いない。

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