田原総一朗 × 谷淳也さん(クレディ・スイス プライベート・バンキング本部長) Vol.4
「プライベート・バンカーは、どれだけお客さまとの信頼関係を深められたかで評価される」

[左]谷淳也さん(クレディ・スイス プライベート・バンキング本部長)、[右]田原総一朗さん(ジャーナリスト)
※この対談は2012年10月に行われたものです。一部、当時の市場情勢を反映した発言もありますが、そのまま掲載しております。

Vol.3はこちらをご覧ください。

金融センターとしてのノウハウがスイスの強み

田原: 今のスイス銀行は、割にいざとなると個人名を明かしちゃうんでしょう? 前は絶対に秘密を守るといわれていたんだけれども。

谷: 今はそういうものではないですね。スイスの銀行自体が昔と違っていて、スイスの銀行がなぜ良いんですかということでお客さまにその価値を説明するときには、秘密性なんてことは絶対に言いません。やっぱりもう、税を逃れてきたお金は要りません、と。

田原: 前は脱税屋が大体スイスに行ったんですよ(笑)。今はそういう話はないわけね?

谷: 今は各国の当局が厳しくなっていますし、いろいろな問題が起こっているので、それはもうやめようということになっています。やっぱりスイスは金融センターとして蓄積したノウハウに価値があるのだ、と。

田原: 金融センターとしてのノウハウというのは、やっぱり情報ですか?

谷: そうですね、情報はありますね。われわれも、とくに個人の資産を運用するためのいろいろな情報はたくさん持っています。それから、資産を運用するためのノウハウ。やはり世界中のお金持ちとつきあった情報というのはスイスに集まってきますから、どういう悩みがあってどういう解決策がワークするのかということも自然と蓄積されています。

田原: 僕はスイスの金融機関の特徴は秘密性だと思っていたので、秘密性じゃなくなったらアメリカやイギリスにシェアをとられるんじゃないかと思っていたんだけれども、なんでとられていないんだろう?

谷: それはやっぱりサービスで満足を与えられているからじゃないですかね。

田原: サービスなんてそんなに変わらないように思うんだけれども、どこが違うんだろう?

谷: お客さまが価値を感じるものというのはいろいろあると思うんですよ。われわれで言うと、財務の安定性ということがありますよね。もちろんわれわれもリーマンショックの影響を受けましたが、実はクレディ・スイスは1回も、1円たりとも政府の支援を受けていないんです。

 自分たちだけで自己資本を維持して、今度バーゼル(国際的に業務を展開する銀行の健全性を維持する自己資本規制)のバージョンが3になりますが、今うちは2.5という多分世界の銀行のなかではいちばん厳しい基準を適用して、いちばんコアな自己資本比率が17%なんです。

田原: ほお、17%もあるんですか。

谷: スイスの銀行の自己資本率はものすごく高いんです。スイスの金融当局もスイスの金融機関は信用で生きていると思っているので、「スイス・フィニッシュ」という独自の自己資本規制の制度があって、バーゼル2や3よりも高い基準を要求するんです。そういう上乗せ部分があってけっこう大変なんですが、結局2、3年のうちに19%まで上げないといけないんですよ。だから、圧倒的に自己資本率が高いんです。

田原: 日本の銀行は自己資本比率を8%にするって大騒ぎになった。

谷: それから、たとえばこの「メガトレンド」、こんなのを機関投資家に持っていってもダメなんですよ。こんなの、5年後10年後の話をして誰も投資をしていませんよね。1ヵ月後とか3ヵ月後のパフォーマンスで彼らはやっていますから、これを必要とするのは個人の方だけなんですが、うちだけでこれに膨大なリソースをかけて世界に百数十名のリサーチ体制を作っているんですね。

 その大勢の人間が、相当の時間とお金をかけて「メガトレンド」を作っているんです。そういうことを蓄積していくわけですよね。だから、富裕層のために何が必要かということで、財務的な安定度による安心ももちろん必要だし、情報も必要だし、お客さまを理解するいろいろなプロセスも必要だし、そういうことをかなり意識的に蓄積しています。

田原: スイス人から反撥は受けないんですか? 「あいつらは世界の金持ちばかり相手にしていて俺たちのことは相手にしていない」とか。

谷: そういうことは全然ないですね。

田原: なんでだろう? スイスはそういう国なんですか?

谷: スイスはそれで豊かになっているんです。スイスって人口が700万人くらいで東京よりも少ないんですよ。それでもグローバルな企業が多いんですね。金融もそうだし、ネスレもそうだし、ノバルティスという製薬会社もそう。あとは機械とか、すごく多いんですよ、人口の割に。

 もちろんそういう会社は、海外に行けば海外の社員を現地採用して、その国でサービスを提供するんだけれども、本社機能があることによって、スイスにものすごく利益をもたらすわけですよね。だから、スイスの今の1人当たりの貯蓄額は世界でいちばん高いと思います。所得も、いちばんじゃないけれど、貯蓄額は日本よりも高いですね。その代わり、物価も高いですけどね(笑)。

田原: スイスには貧困というのはないんですか?

谷: ある程度の格差はあると思いますが、スイスの街を歩いていても、あんまり貧困を感じたことはないですね。

田原: シンガポールがそうみたいね。あそこは大金持ちはいないけれども、貧困はまったくない。みんなある程度の生活はできているんだそうですね。

谷: スイスもそれに近いんじゃないですかね。あんまり貧困はないんじゃないですか。

田原: じゃあ、世界の大金持ち相手に商売しているから、スイス人がみんな豊かになっているんだ、と、そういうふうに思っているんですね。

谷: まさに金融が一つのサービスであり産業なわけですが、スイスは世界から利益を得ている。

田原: じゃあ、金融業はスイスのGDPの何割くらいですか?

谷: そこまで詳しくはわかりませんが。

田原: 二割、三割とかもっと高いのかな?

谷: そこまでではないと思いますけれども、ただ、日本よりは遙かに高いと思います。

田原: 日本はろくな金融機関がないもんね(笑)。

谷: 日本の場合は、これだけメガバンクがあっても、もちろん皆さん海外に頑張って拡大されているんだけれども、多分、国内の比率が圧倒的に高いですよね。スイスの場合は何だかんだいっても700万人しかいないので、もちろんスイスのなかの金融も大事ですが、やっぱり海外で活躍している分がすごく大きいんです。

田原: ああそれが大きいんだ。つまり、国内よりも海外でビジネスしている金融機関が圧倒的に多いんだ。

谷: スイスはやっぱりそういう意味では、言葉は悪いですが、出稼ぎ的なところがあるんですね。まあ傭兵部隊なんかもそうですし。もう一つの特徴は、プライベート・バンキングが屋台骨だという金融機関はスイスにしかないんですよ。

 たとえばシティバンクにしても、ヨーロッパのドイツ銀行とか、イギリスの銀行にしても、リテイルはありますよ。でも、プライベート・バンキング部門が従業員の半分を占めていて、収益の半分以上を稼ぐという金融機関はスイスにしかないんです。だから、金融業はスイスにとって大事だし、そのなかでもプライベート・バンキングは取り分け大事だということです。

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