田原総一朗 × 谷淳也さん(クレディ・スイス プライベート・バンキング本部長) Vol.2
「デモグラフィーとかマルチポーラーなどをふまえて、どこに投資機会があるのかを考える」

[左]谷淳也さん(クレディ・スイス プライベート・バンキング本部長)、[右]田原総一朗さん(ジャーナリスト)
※この対談は2012年10月に行われたものです。一部、当時の市場情勢を反映した発言もありますが、そのまま掲載しております。
Vol.1はこちらをご覧ください。

変化し続けるアメリカは高ストレス社会

田原: スイス人のことは知りませんが、たとえば、アメリカ人と日本人との違いはね、アメリカ人はやっぱり自由競争が好きじゃないですか。日本人は嫌いですよね。その点、スイスはどうなんですか?

谷: スイスもすごく競争社会ですよ。ただ、一方ではすごく秩序みたいなものを重んじるんです。

 たとえば組織が動くときに全体の方針を決めるじゃないですか。部門が三つあるような場合、三つの部門のヘッドが「俺はこうやりたい」「俺はこうやりたい」と思ったとします。それぞれが独自に動くのもそれはそれですごく多様性があって活力が生まれるのかもしれませんが、スイスの会社は議論を重ねて方針や戦略を決めます。全体の方針が決まると、あとは粛々と動いていくんです。少し日本的な文化かもしれませんね。

 ただ、日本の会社よりもおもしろいところは、戦略的な情勢に対する適応が早いんです。だから、すごく合理的にすべてを判断していくんです。

田原: そこがいちばん問題でね。今は日本という国の経済力がドーンと落ちていて、単純にいえば1990年には日本の国際競争力が1位だったのが、今は27位ですね。なんで落ちたのかというと、そういうふうに状況が変わったのに対応が遅いんですよ、この国は。日本の企業は、なんでこんなに遅いんだろう?

谷: どうしてですかね?

田原: 日本の企業にいらしたから、比べればわかるじゃないですか。

谷:: 日本の場合、組織の安定度を重視する風潮はありますよね。今課長の人がいきなり社長にはならない。スイスの金融機関で見てきたのは、たとえば40才の人が全社の社長になってしまったりするわけですよ。

 キングメイカー的なボード(取締役会)が企業内で機能していて、チェアマンがいろいろな人材を見ていて、ボードがこの人にCEOをやらせようと思えばすごい勢いでいろいろなところを3年くらい回して抜擢するわけです。

田原: そこはね、日本の企業は基本的に抜擢ということがないですよ。年功序列なんですよ。だからやっぱり、課長になる、部長になる、役員になるというのは、年功序列なんですよ。抜擢はないですよね。平社員からいきなり役員になるなんてないですよね。なんでないんだと思う?

谷: そういう組織がある時期にはうまくいったから、その成功体験をずっと引きずっているんでしょう。

田原: 今の新しい時代、単純にいえばIT時代だけれども、状況が変わっちゃったんですよね。変化が早いんですよ。これに対応できないんだと思う。そこで聞きたい。どんどん変化が早くなっていますよね。そういうふうに変化が早いときに将来の見通しなんて出せるものなんですか?

谷: それは簡単なことではありません。

田原: たとえばユーロがどうなるかとか、あるいは日本は今景気が悪いですね、これは将来どうなるかとか、わかるものなんですか?

谷: それはわかりません。

田原: だってさっき「長期の見通しを立てる」って言ったじゃない?

谷: 未来のことを正確に予想することは難しいですよ。ただ、努力をすれば今の現状を分析することはできますよね。だから、たくさんエコノミストの方がいて世界の情勢を分析しているんですが。

田原: 今のエコノミストは、僕はほとんど信用していない。つまりね、10年前に日本がこうなると言い当てたエコノミストは日本にはいないんですよ。

谷: われわれがやろうとしていることは二つあります。客観的に世界はどうなるか、日本はどうなるか、というのは資産運用に大事ですから、それぞれのお客さんの資産運用に対するモチベーションは別にして、少なくとも資産を運用しようとしている方は一生懸命そこを考えています。未来のことを考えないと今日のことは決められないですよね。そこで、個人が1人で悶々と考えているよりも、もっとたくさんの情報を整理して、いろいろな視点を提供して、お客さまが考えるお手伝いをできますよね。

 それから、これはお客様自身の人生もそうなんですよ。自分の人生を分析して客観的に考える。自分の会社があって、お金はどこにあって、承継する息子・娘はいるのか、社員がどれだけいるのかとか、いろいろな状況を考えて、どうやって自分の人生を組み立てていけばいいのかということを、客観的に分析して戦略を立てる。これもけっこう大変なんですよ。われわれはそこでもお手伝いできると思います。

田原: たとえば、日本は「失われた20年」といって、株価がどんどん落ちていきましたね。アメリカは少なくともリーマン・ブラザーズが倒産してから、今は株価が上がっていますよね。経済も良くなっている。なんでアメリカは経済が良くなっているのに、日本は良くならないんですか? 長期の見通しとしては、どこをどう見ていますか。どこがいけないんだろう?

谷: 先ほどスピードというお話をされましたが、いろいろな経済的リソースの再配分のスピードが速い国と遅い国があるんです。

田原: 日本は遅い、と。なんで遅いんですかね?

谷: 遅いことの良い面は安定ですよね。悪い面は変化が難しい、成長が難しいということです。私はアメリカで5年くらい暮らしましたけれども、アメリカはやっぱりストレスの多い社会だと思うんです。常に変化し続けなければいけないから。

田原: アメリカのほうがストレスは多いんですか?

谷: 多いと思います。日本は今ちょっと違う意味の、成長しない苛立ちのようなストレスがあります。アメリカの場合は、常に摩擦が起こりながら変化していくので、それについていける人といけない人の差が出てくる。日本とは違う意味でストレスが多い社会だと思います。

 経済力を支えるのは、労働力だったり資本だったり技術だったりするじゃないですか。そういったものの再配置みたいなスピードの速い国と遅い国というのは、同じ先進国でも成長のスピードが違うと思います。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら