大量得票を背に猪瀬都政が発信
20年五輪招致、地下鉄経営一元化…… ワンマンに警戒感も[東京]

資料を手に記者会見する猪瀬直樹東京都知事=東京都庁で1月8日

 東京都政を13年半率いた石原慎太郎氏の突然の知事辞職により、新しい「首都の顔」に副知事だった猪瀬直樹氏(66)が就いた。青島幸男氏、石原氏に続く3代連続の作家知事の誕生だ。9人で争った都知事選の投票率が衆院とのダブル選効果で62・60%と上がったこともあり、433万8936票という国内選挙の個人最多記録を塗り替えての圧勝だった。巨大な「民意」を背負い、猪瀬知事は日本の首都・東京をどう変えていくのか。

 苦虫をかみつぶしたようなしかめ面で、舌鋒鋭く相手を追い詰める。そんなイメージの強い猪瀬氏だが、時折、はしゃぎ過ぎと思えるような不用意な物言いをすることがある。当選直後がそうだった。

「ギネスに登録しようかと思っている」。都議や支援者に会うたび、空前の大量得票をこう自賛し、同じく衆院選で大勝した自民党の安倍晋三総裁には「うらやましい限り」と苦笑された。

 普通、前任者の後継と目される本命候補が順当に当選すれば、事務方には安心感が広がるものだ。しかし、今回の雰囲気は少し異なる。もともと猪瀬氏には「スタンドプレー好き」「議会軽視」との批判がつきまとい、周囲との関係は良好とは言い難かった。この先、圧勝した猪瀬氏が「我こそは民意」とばかりに突っ走り、ワンマンぶりを強めるのではないか……。「勝ち過ぎ」に対する警戒感が、都庁や都議会に静かに根を広げている。

 道路公団民営化推進委員などで名を上げた猪瀬氏の政治姿勢を、一言で表すなら「改革」だろう。選挙戦でも「改革は石原さんや僕のような変人でないとできない」「東京の改革をさらにスピードアップさせる」と盛んにアピールした。就任会見では「都政刷新を求める層からも支持を集めた」と選挙結果を分析し、単なる「石原継承」ではなく、独自色を強める考えも示した。

 だが、都知事選で掲げた公約をよく見ると、新たな政策は意外なほど少ない。2020年東京五輪招致、東京メトロと都営地下鉄の経営一元化、羽田空港の国際便発着枠拡大などは、いずれも副知事在職中から手掛けていた内容だ。実現までのデッドラインを設けるような工程表も示しておらず、揚げ足を取られないようにまずは安全運転でスタートを切ったといえるだろう。

 とはいえ、公約実現に向けた道のりは多難だ。

 猪瀬都政の最初の大きなヤマ場は、9月7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会で開催地が決まる20年五輪招致だ。国際舞台で都が関与できる範囲は限られており、知事の力量で成否が決まるわけではないが、一昨年に策定された都の長期計画「2020年の東京」は、五輪招致成功を前提にしている。失敗に終わればインフラ整備をはじめ長期計画の練り直しが不可欠で、都政はさまざまな面で失速する恐れがある。

 地下鉄に関しては、副知事時代には2社併存の弊害の象徴として「九段下駅ホームの壁」の撤去に着手するなど、サービス一体化に一定の成果を上げた。だが、経営統合となるとハードルは格段に高くなり、職員の身分保障などの法整備も必要になる。現時点で1兆円近い長期債務を抱える都営と統合すれば、国が過半数の株を持つメトロの資産価値が下がるのは避けられず、財務省の首を縦に振らせるのは容易ではない。

 他にも猪瀬知事の公約には、ハローワーク機能の都への移管、実質国有化された東京電力の老朽火力発電所を新電力の最新施設に置き換えるなど、国との折衝が必要なものが多い。石原氏に比べると国会や霞が関に太いパイプを持たない猪瀬知事がどこまで国を動かせるか、未知数と言わざるを得ない。

課題は将来ビジョンの提示

 そして、今後の猪瀬都政に何よりも求められるのが、首都・東京の将来像を語る大きなビジョンの提示だ。石原氏が「東京から日本を変える」と豪語し、新銀行東京など巨額の支出を伴う独自政策を展開できたのは、人口や企業の東京一極集中が進み、豊かな財政に支えられたことが背景にある。だが都税収入は07年度をピークに減り始め、人口予測も20年をピークに減少に転じる。社会が縮んでいく中、これまでのような攻めの都政ばかりは続けられない。

 例えば、90年代に「改革派知事」として登場した高知県の橋本大二郎氏、宮城県の浅野史郎氏、三重県の北川正恭氏らは「情報公開」をキーワードに行政運営の透明化や住民参加を促進した。

 後半は都政への関心が薄くなったとされる石原氏も、1~2期目はディーゼル車規制などで都市の発展と環境との調和に力を注いだ。それらと比べると「一点突破」を得意とする猪瀬知事の掲げる政策からは、東京という自治体が目指す大きな方向性が見えづらい。

 東日本大震災後、都は首都直下地震で最大9700人が死亡するとの被害想定をまとめた。建物倒壊や火災、液状化、大量発生する帰宅困難者などへの対策は切実さを増している。少子高齢化が急激に進み、2年後には300万人を超えるとみられる高齢者を支えていく仕組み作りなども喫緊の課題だ。

 猪瀬知事はこうした足元の問題への対応策を、早急に示す責務がある。都庁幹部は「副知事の一人としてはオモチャ(気に入った個別政策)に夢中になっていてもよかった。知事の役割はそうではなく、大局観を示し、現場を知る職員の声を吸い上げることだ」と指摘する。

 就任から時間がなかったため、都の来年度予算原案に「猪瀬カラー」はまだ十分に出ていない。都議会も新知事の出方を様子見している段階だ。猪瀬知事が人事や政策でリーダーシップを本格的に発揮し、その真価が問われるのは、都議選と参院選を経て都政と国政の形が固まる夏以降になるだろう。

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