福島県の子供に「肥満傾向」
学校保健統計調査 原発事故による活動制限の影響[教育]

トランポリン(手前)など屋内施設で遊ぶ子供たち=福島市のあづま総合体育館軽運動室で12年12月20日

 東日本大震災後、福島県で「肥満傾向」と判断される子供が増加している。文部科学省が昨年12月に発表した学校保健統計調査で判明したもので、5~9歳の各年齢で割合が全国最多となるなど、低年齢ほど多い。福島県は東京電力福島第1原発事故による放射線の影響から多くの小中学校で体育など校庭での活動を制限しており、文科省と同県教育委員会は「原発事故による運動不足の影響」と分析している。原発災害が子供の肥満という形となって現れており、早急な対応が求められている。

 調査は昨年4~6月、全国の5~17歳の約70万人(全体の5%)を抽出して実施された。一昨年は震災のため対象外とされた岩手、宮城、福島の3県は2年ぶりの調査となった。身長による標準体重から2割増以上を「肥満傾向」とした。

 都道府県ごとに肥満傾向の子の割合を比べたところ、福島県の5~9歳と14、17歳で全国最多になった。特に5歳(4・9%)、6歳(9・7%)、8歳(13・5%)で、「肥満傾向」とされる子供の数がいずれも全国平均の2倍を超えた。ほかに10、11歳が2位。残りは5位~26位だった。

 東北地方は冬の寒さ、積雪の影響などから運動不足になりがちで肥満が多い傾向にある。福島県は震災前の10年度は15歳が全国最多で、5~9歳は3~18位。14歳は6位、17歳は2位だった。もともと肥満が多いものの、今回は5~17歳までの13学年中7学年で全国最多となるなど、震災後の肥満の増加が顕著に出た。

運動不足と環境変化

 同県教委は「特に園児と小学校低学年への影響が大きい。屋外活動の制限で外で遊ばなくなったほか、避難生活で食事や心の状態が変わり生活習慣の確立が困難になっている」(健康教育課)と分析する。運動不足だけでなく、食事や心にも影響が及んでいるとの分析だ。

 同課によると、一昨年6月時点で全小学校(484校)の15%にあたる71校で校庭での活動をゼロに、50%の242校で1日2~3時間に制限。昨年5月時点でも98校が制限していた。各家庭においても野外での遊びを自粛したケースが多いといい、より低学年の子供に影響が出ているのも特徴だ。

 一方、宮城、岩手両県の肥満傾向の子供の割合はほぼ横ばいで、震災の影響は見られなかった。また、現行の調査方法となった06年度以降、全国の肥満傾向の子供の割合が初めて全年齢(5~17歳)で1割以下となり、スリム化が進んだ。

 原発事故では放射線による今後の健康被害が懸念されている。しかし、今回の調査は生活の変化が子供の肥満となって既に現れていることを示す。子供の健康をどう守るのか、文科省も対応を始めている。同省は「放射線不安から外出できず、ストレスや運動不足による食欲不振、不眠、肥満が懸念される」として、昨年4月から約2億円を使い福島県の学校にスポーツトレーナーや医師を派遣しているが、今年4月以降も継続する方針。さらに福島以外の都道府県や政令市の学校に対しても、約2億円をかけて放射線の知識を持った専門医を派遣し児童生徒の相談を受け付けたり、学校医を対象とした研修を実施する方針だ。

 福島県内でも運動への取り組みは始まっている。原発事故後、放射線から子供を守ろうと、屋内遊び場が相次いで完成。その数は県内18市町村37カ所に上る。県内最大級の砂場にトランポリン、自転車などの遊具がそろう屋内遊び場「ペップキッズこおりやま」(郡山市)はオープンから1周年を迎え、延べ35万人が訪れた。

 ペップキッズを創設したNPO法人の理事長は「屋内遊び場が使える機会は時間や移動などの点で限定的。原発事故前の気軽に外で遊べる運動環境とは比較にならない。室内にいる時間が増えれば、運動が減り間食が増えるのは明らか。食育も必要だ」と話す。昨年末にペップキッズこおりやまで小学2年の次男を遊ばせていた母親は「震災前は外で一日中遊んでいたせいか、やせていたのですが、学校の検診で軽肥満と判定されて」と不安がる。

 昨年9月時点で福島県内の小学校55校(11%)で校庭での一部活動制限が続いている。学校現場だけでなく、通学路や遊び場となる野外についても一刻も早い除染とともに、運動にとどまらない生活全般の低学年の子供や家庭を対象としたケアが必要だ。特に避難生活を続ける子の食事や心の状態を把握し、生活習慣をどう確立させるかは喫緊の課題だろう。

 一方、学校保健統計調査は、視力やむし歯、ぜんそくなどの主な疾病についても調べた。裸眼視力が0・3未満の小学生は8・6%、中学生が27・1%となり、いずれも1979年度の視力調査開始以降で最多。携帯やテレビ、ゲームの影響を伺わせる内容となった。幼稚園児は1・0未満が27・5%、高校生の0・3未満は34・6%で高い割合を占めている。

 約30年前の親世代と比べ著しく改善したものもある。むし歯のある幼稚園児は42・86%で、30年前の82・42%のほぼ半数。小学生と中学生は30年前はともに90%台だったが、小学生は55・76%、中学生は45・67%と大きく改善した。

 逆にアレルギーの増加などを受け、ぜんそくは親世代に比べ急激に増えた。幼稚園児は30年前の0・49%から2・33%に、小学生は0・53%から4・22%にいずれも急増した。ぜんそくの増加は先進国共通の現象といい、文科省は「衛生状態が良くなったことの反作用ではないか」と分析している。

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