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特別対談 佐々木俊尚×島本久美子
一枚の写真が企業の運命を決める時代 【後編】

[左]佐々木俊尚さん(ジャーナリスト)、[右]島本久美子さん(ゲッティ イメージズ ヴァイスプレジデント兼ゲッティ イメージズ ジャパン代表取締役)

【前編】はこちらをご覧ください。

ビジュアル軽視の日本企業は、マーケットを掴み損ねている

佐々木: この本(『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか 一枚の写真が企業の運命を決める』)によると、日本は識字率が高かったので文字が伝達手段の中心になったけれども、イギリスやアメリカは識字率が低いからビジュアルを見せなければいけなかった、という違いもあったようです。識字率が高いのは良いことですが、そのせいでビジュアルを考えることがおろそかになってしまった。何とも皮肉な感じがしました。

島本: おそらく、漢字そのものが優れたビジュアル素材なんでしょうね。日本人は漢字をビジュアルとして認識しているところが多分にあると思います。

佐々木: アルファベットより漢字の方が文字を読むスピードが速い、という話を聞いたことがあります。

島本: だから日本では、電車内の吊り広告でもテキスト中心のものが非常に多いのでしょう。

佐々木: 確かにそうですね。車内吊り広告にドカンと写真が載っていることって、あまりない。

島本: それが、たとえば欧米で地下鉄に乗ると逆になります。目に入ってくる広告は非常にテキストが少なく、ビジュアルが主体になっているんです。

佐々木: そういった海外のニーズを日本人はまだあまり考えていない。要するに、日本国内でやっている分には、文字だらけでもOKだと思っているんでしょうね。

島本: はい。だから、おそらく海外に出たときに損をしている日本企業はたくさんあると思います。せっかく優れた製品やサービスを持っているのに、質の良いビジュアルでその魅力を伝えようとしないから、マーケットを掴み損ねてしまっている。

佐々木: 日本企業の新製品の写真もひどいのが多いですね。海外のIT企業のプレスリリースなどを見ると、新しい製品の写真は、その製品をユーザーが使っているシーンを撮ったものが多いんです。特にアメリカの企業とかは。

 でも、日本企業はなぜか、発表会でキャンペーンガールみたいな女の子が新製品を持っているような写真ばかり。スーツ姿のおっさんと2人でニコッと笑ったりして(笑)。そういうのが多すぎると思います。

 製品を使っているシーンの写真があれば、製品自体のイメージが綺麗に統一されるし、ユーザーも自分のブログに使ったりできるじゃないですか。なのに、製品と関係もないキャンペーンガールやタレントの写真を見せられると、すごい違和感を持ってしまう。

島本: 日本のユーザーにも、おっしゃるような違和感を持つ方が少しずつ増えてきていると思います。

佐々木: 先ほど、日本の写真が海外に出ないのは流通の問題もあるんじゃないかと言いましたけど、たとえばゲッティ イメージズの場合、日本で撮られた報道写真はどのように流通させているんですか。

島本: 今は朝日新聞さんと産経新聞さんと提携しています。両社から上がってきた写真を、グローバルで配信しています。

佐々木: そうすると、事件報道など日本のニュース写真については、海外でも日本でも同じように見られるんですか。

島本: そうです。でも、まだ量は少ないですね。

佐々木: 少ないんですか。たくさん配信しているように思えますけど、そうでもないと。

島本: 事件報道だけでなく、スポーツやエンターテインメントなどの分野においても、日本発の写真は非常にまだ少ないんです。

 その辺の考え方も日本と違うところで、たとえば欧米では「バッドパブリシティもグッドパブリシティだ」と言われるくらい、芸能人は基本的に「何でもいいからとにかく多くの媒体に出た方がいい」という考え方で活動しています。

 その中で、特にハリウッドのセレブなどはメディアを非常にうまく利用していて、同じニュースが出るのであれば良い写真を使ってほしいと、あえて自分からプロのフォトグラファーによる写真撮影の場を設けたりしています。弊社のフォトグラファーがそういう場でセレブを撮影することもよくあります。で、良い写真が撮れたら、それが優先的に使われる。

 日本の場合は逆ですね。特定の利用のためでなければ撮影させないなど、いろいろな理由で、良い写真が流通していきません。もちろんグローバルでも配信されない。日本国内ではそれで十分かもしれませんが、これでは情報が海外に出ていきませんよ。

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