「大安売り」から「否定」へ!? 今年1月期スタートの連ドラを読み解くキーワードとは

 「歌は世に連れ、世は歌に連れ」と言われる通り、流行歌には時代や世相が現れる。それはドラマも同じだ。

 では、今年1月期にスタートした連続ドラマを読み解くキーワードとは何か? それは「愛の否定」だろう。1990年代にフジテレビの『東京ラブストーリー』や『愛という名のもとに』などが爆発的にヒットして以来、連ドラ界には愛が溢れ続けたが、やっと宗旨変えが始まった。

 そもそも実社会では愛がほとんど存在しないことが証明され始めている。連ドラだけが一方的に愛を押し付けることには無理があった。

 「愛のムチ」は単なる暴力に過ぎなかったし、いじめは一向になくならない。国民総意であるはずの東北復興では、予算が流用されていた。親による子殺しも後を絶たない。愛の欠落は枚挙にいとまがないのだ。それでも連ドラだけが愛を押し売りすれば、世間を知る大人の視聴者たちは逃げていく。

「愛ってなんだ? あるなら見せてみろ」

 その点、フジの『dinner』(日曜午後9時)は口先だけの愛を否定していて痛快だし、時代も反映している。潰れかけた高級イタリアンレストランが再生に向かう物語で、それ自体は凡庸なのだが、主人公の雇われ料理長・江崎(江口洋介)のセリフが小気味よい。

 自分たちの技量不足と怠慢から料理の味が落ち、客が離れたレストランが舞台。旧来の従業員たちは「自分たちの料理には愛情がこもっている」と息巻くが、立て直しを任された江崎は冷徹に言い放つ。

 「愛ってなんだ? あるなら見せてみろ。料理の味を決めるのは、チームワークや愛情なんかじゃない。1グラムの塩だ」

 この言葉に快哉を叫んだビジネスマンは少なくないのではないか。業績不振の企業ほど、情熱や汗を売り物にしたがるが、そんなものは顧客に何の関係もない。ダメな企業のビジネスマンほど、本業より上司へのゴマスリに腐心し、最後は「収益が落ち込んでいるのは自分たちのせいではない」と結論付ける。一方で改革の声には耳をふさぐ。

 江崎は、業績不振企業のビジネスマンのようなレストランの従業員たちに対し、「このままでは間違いなく潰れる。俺の指示に従えない者は辞めてもらって構わない」と最後通牒をつきつける。やっと従業員たちは自分たちの甘えに気づき、レストランは再出発する。江崎の言動はまるで有能な企業再建者のようで痛快だ。

 江崎役に江口をキャスティングしたのも面白い。1990年代、江口はフジの『ひとつ屋根の下』などのトレンディドラマで、「愛」を連発していた。同作で口にした「そこに愛はあるのかい?」は流行語にまでなった。そんな"愛の巨匠"が、愛を言下に否定するのだから、この作品におけるフジの深慮遠謀を感じる。

 江口に愛を捨てさせた『dinner』は、実は革新的な野心作でもある。それに視聴者が戸惑ったのか、初回の視聴率は8.8%にとどまったが、2回目以降は11.9%、11.2%で、まずまず。全体の完成度も高いから、これから上昇していく気配を感じる。疑う向きは美術や照明、音響効果にも注意して見て欲しい。イタリアンレストランの裏表が見事に再現されている。

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