「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第15回】
同じ障害を抱えた、ものすごい変わり者の親友たち

【第14回】はこちらをご覧ください。

「空気を読む」必要のない素晴らしいサークル

 大学に入ってからもしばらく一人ぼっちだった僕は、1年生の夏休みの直前、最高の"居場所"を手に入れた。前回記したように、「Numbers研究会」というサークルを見つけたのだ。

 キャンパスを歩いているとき、奇妙なメンバー勧誘ポスターを見たのがきっかけで、まったくの偶然が重なって入会説明会に顔を出してみた。そこで会った学生たちや顧問教授のことをすっかり気に入ってしまい、すぐに入会を決めたのだ。

 人に嫌われることを気にせずに振る舞うことのできる場は、ただひたすら楽しかった。とにかくメンバーたちは皆、僕と同じく「数」や「数学」を愛し抜いているのだ。「人生で初めて仲間ができた!」と、躍り上がりたいような気分だった。

 暗い灰色だった僕の大学生活に、突然、色彩が付き始めた。意識して顔の筋肉を動かさなくても、笑顔が出るようになった。すべて、授業以外の時間に、Numbers研究会の部屋に入り浸るようになったせいだった。

 メンバーの学生たちは、何でもズケズケと本当のことを言う連中ばかりだった。問題が解けない仲間には「こんな簡単なのがどうしてできないの?」と聞き、ときに「高校2年でもできるこの問題が解けない君は高校1年レベルだな」とか「論理力が決定的に足らないね」といった言葉を浴びせるが、正解を出せた仲間には「すごいよ!」「1ヵ月で能力が2割は上がったんじゃないか」などとすぐに誉める。

 誰も悪意ある発言をしなかったし、逆にお世辞や追従の類も一切口にしない。だから、仲間の言葉の裏を読む必要がない。空気を読む必要もまったくなかった。

 僕はこのNumbers研究会で、最初から、仲間とのコミュニケーションにストレスをまったく感じなかった。本当のこと、つまり客観的な事実と、自分が実際に思うことを素直に話していればいいのである。無理に"いい奴"を演じる必要もない。そもそも、そんなものを演じたところで、ありがたがってくれるような者もあまりいそうになかった。

 いくら思ったことを遠慮なく喋っても、「空気を読めない奴だな」とも「座が白けるんだよ」とも「威張っているんじゃねえよ」とも「人を侮辱してるのか」とも言われなかった。裏を返せば、僕はどこへ行っても、そういったセリフを浴びせられ、煙たがられ、嫌われるのが常だったのだ。

 Numbers研究会の部屋の中では、あたかも実家の家族と一緒にいるときと同じように、リラックスして、「自制」ということを忘れて振る舞うことができた。数学の問題やパズルで間違った答えを出した者に「全然ダメだね」「理解度がゼロじゃないの」と言い、短時間で鮮やかな正解を出した者には「俺より才能が数段上だね」と誉めた。もちろん、僕の方が他の仲間に酷評されたり、絶賛されたりすることもあった。

 僕たちは基本的に、他人からの批判に納得できなければ反論したが、感情的に怒るということがなかった。数字や数学については、すべて事実と論理に基づいて議論し、終わった後に人間関係のしこりが残ることも(少なくとも僕は)ゼロだった。

 しかし、おそらく他のサークルやクラブに入っていれば、僕の言動は傍若無人で配慮に欠けるとされ、多くの人を怒らせていただろう。その結果、周囲から無視されていたか、下手をすると追い出されていたと思う。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら