野球
二宮清純「王貞治、驚異の動体視力のつくり方」

 初速150キロ前後のストレートが、ホームベース付近で落ちたり曲がったりするのですから、野球のバッターは大変です。動体視力がよくなければ、バットの芯でとらえることはできません。

 近年はビジョントレーニングに関する研究も進み、2軍の寮にトレーニング機器を備えている球団もあります。

 一例をあげればハンド・アイ・コーディネーション。和訳すれば「手と目の協応動作」ということになるのでしょうか。板状の機器に小さなライトを点滅させ、それを指で押すというトレーニング方法があります。私も一度、試したことがあるのですが、点滅の速度を速めると、目が追いつかなくなり、必然的に手も止まってしまいました。たとえば左下隅の点滅ラインについていけなかったとしましょう。右バッターならインコース低めのボールが苦手ということになります。

生きたボールで目慣らし

通算本塁打のみならず通算2390四球もプロ野球史上最多を誇る

 しかし、こうしたトレーニングも生きたボールにはかないません。通算868本塁打の王貞治さん(現福岡ソフトバンク球団会長)は、かつて『新潮45』に、こんなコラムを寄せています。

<僕は自分の“眼”を切り札にするために、人一倍の努力をした。練習ではブルペンに行かなかったことはない。投球練習をする投手にことわり、バッターボックスに立たせてもらって、ボールを見る訓練を続けた>

 とりわけキャンプ前半は、ピッチャーの生きたボールに目が慣れていません。慣れとは恐ろしいもので、1カ月以上、実戦から遠ざかると、ボールが速く見えたり、怖く感じられるものだという話を、何人かの選手から聞いたことがあります。

 そこで、王さんはブルペンで生きたボールに接することで、目の感覚を取り戻したというのです。専用機器に頼らなくても、動体視力を鍛えたり、磨いたりするトレーニングはできるのです。