世界一わかりやすいスティグリッツの経済学
第4回 「"完全競争市場"はあり得ない」から「あるかもしれない」へ

第3回はこちらをご覧ください。

 「完全競争市場」。これは入門経済学の分析で「前提」とされている条件ですが、同時に「経済学が役に立たない」といわれる主な理由の一つにもなっています。

 なぜか? それは「完全競争市場」が現実にはあり得ないからです。「経済学が分析の前提として考えている世界は、現実にはあり得ない。だから経済学は役に立たない」と言われているのです。

 わたしも、その主張には一部納得できます。あり得ない世界を想定して「経済学ではこうなる」と言われてもまったく意味がないからです。

 しかし、最近は考えが変わってきました。というのは、インターネットが完全競争市場をつくりつつあるからです。

 今回のkeywordは「完全競争市場」「プライステイカー」「インセンティブ」です。

完全競争市場とは?

 経済学では、商品を買う消費者はみんな自分なりの「選好」を持っていて、自分の好みを順位づけすることができる。そしてその選好に従って、「合理的」に選んでいく、ということを想定しています。

 また商品を売る企業はすべて、自分たちの利益をできるだけ大きくしようとする、つまり「利益の極大化」を狙って行動している、と想定しています。

 そして、その消費者(商品を買う人)と企業(商品を売る人)が「市場」で取引をするわけですが、その市場にも前提があります。

---それは、どんな前提か?

★商品の売り買いが行われる市場では、売りたい人も買いたい人も大勢いる
★しかもみんな同じものを売り買いしている

 という前提です。

 たとえば、アキバの電気街を想像してください。アキバでは、どの店に入っても、同じものを売っています。品揃えが一緒で、この店でしか買えない商品はありません(一部にはかなり専門的な商品があるかもしれませんが、ここでは一般的な商品を考えます)。そしてアキバに来るお客さんも同じものをほしがっています。

 これは、全員が全員液晶テレビをほしがるということではありません。お客さんがほしがっている商品はどれも一般的な商品で、売っているお店もたくさんあれば、買いたいお客さんも自分以外に大勢いる、という意味です。

 たとえば、こういうことです。

 Aさんは液晶テレビ、Bさんは携帯電話、Cさんは冷蔵庫を買いに来ましたが、だいたいどこの店でもこれらの商品は売っていて、3人はどの店でも買えます。またお店から見ると、お客さんはこの3人以外にも大勢います。もし3人が買ってくれなくても、他にもお客さんがたくさんいるんです。このような状態を、経済学では「完全競争市場」と呼んでいます。

 インターネットが普及する前は、「すべての人が、すべての情報を把握して買い物をしている」など考えることはできませんでした。

 しかし、いまは「もしかしたら、そういう時もあるかもしれない」と思います。

 特にアキバにマニアックなパソコンの部品を買いに来る人は、どの店に何が置いてあり、それがいくらか、ということを把握しています。おそらくありとあらゆる情報を知っているでしょう。マニアックなパソコンの部品は、「完全競争市場」に近付いているのです。

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