官邸主導の危機管理対応に瑕疵はなかったが、「日本版NSC」の設置には超党派の賛同と国民の理解が不可欠である
〔PHOTO〕gettyimages

 政治の世界では、「運も実力のうち」という言葉がある。その意味で安倍晋三首相は、滑り出しから「ツキ」にも恵まれていると言っていいかも知れない---。

 不謹慎と言われる向きもあるだろうが、アルジェリアで発生した邦人人質事件のことを指す。国の安全保障や危機管理については怜悧冷徹に観る必要がある。イスラム武装勢力がアルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設を襲撃した事件は、プラント建設に従事していた日揮社員・派遣社員日本人10名が殺害されるという最悪の結果となった。だが、今般の不幸な事件への安倍政権の対応について、「瑕疵はなかった」というのが支配的な見方である。

 事件発生初期の安倍首相の東南アジア歴訪中断・帰国決断から、その後の官邸主導の当該国アルジェリア政府、プラント建設を主導するBPの英国・キャメロン政権、隣国マリの反政府勢力一掃作戦を展開するフランス・オランド政権、そして北アフリカ地域のエリント情報を持つ米国・オバマ政権との協議を含めた対応に至るまで、「宿題」は残したが、できることは全てやったという評価が定着しつつある。

「菅官房長官は、まさにはまり役」

 今回の事件で際立ったのは、安倍官邸主導の対応の中でも、菅義偉官房長官の存在感である。初期段階では、安倍外遊のハイライトとして位置づけていたジャカルタでの「安倍ドクトリン」発表を取り止めて帰国したが、この決断はもちろん、安倍氏自身によるものだ。が、安倍氏に早期帰国を強く助言したのは菅氏である。また、現地イナメナスに城内実外務政務官を滞在先のクロアチアから急きょ派遣することを決めたのも、城内氏の上役の岸田文雄外相ではなく菅官房長官であった。

 1月21日深夜の官房長官記者会見もまた関係者の間で話題となった。城内政務官が速報してきた現地最新情報を踏まえた状況報告を行なう前に「哀悼」の意を述べた菅氏の言葉がまさに畏敬の念から振り絞ったものであり、聞く者の心を揺さぶったのだ。こうした菅氏の情念的なメッセージだけでなく官邸での冷静な差配には賞賛の声が少なくない。

 その意味では、安倍首相が事件発生前の10日夜、メディア関係者5人との会食の席で「菅官房長官は、まさにはまり役でしょう」と自らの閣僚人事を自我礼賛したことも肯ける。安倍官邸の陣容については、これまでに筆者は「良く出来た人事」と記したが、危機管理の面でも、時計の針を元に戻す人事とされた事務方のトップである杉田和博官房副長官(事務担当・1966年警察庁入庁)以下、米村敏朗内閣危機管理監(74年)、北村滋内閣情報官(80年)の警察官僚OBトリオがそれなりに機能したと言えよう。

 もう一つ指摘すべきは、これまた異例の抜擢人事であった兼原信克官房副長官補(外交担当・81年外務省)の存在であった。昨年9月に内閣情報調査室次長から国際法局長として本省復帰を果たしたばかりの兼原氏を官房副長官補として官邸に迎えるアイディアは、麻生太郎副総理・財務金融相が安倍首相に強く進言して実現したものだ。

 第1次安倍内閣時の麻生外相が06年春に発表した外交戦略「自由と繁栄の弧」構想の草案は、当時の谷内正太郎外務事務次官(69年・現内閣官房参与)の指示によって兼原総合外交政策局総務課長(当時)が書いたものである。外務省フレンチスクール出身で駐仏大使館勤務経験もある兼原氏が官邸に居合わせたのも「ツキ」と言えよう(北村内閣情報官も同時期に勤務していた)。そう、アルジェリアの旧宗主国はフランスである。

 このような連携が一応ワークして、危機管理対応に「瑕疵がなかった」のである。しかしそれでも、「地下資源の宝庫」アフリカ諸国に駐在武官が2人しか派遣されていない現状を含め、紛争地域と資源保有国、そしてアルジェリアのように資源開発プラント建設が重なるアフリカ諸国に関する情報収集と情報網構築の脆弱さが改めてクローズアップされたのは事実である。指摘されて久しい「真のインテリジェンス機関の確立」は、予算・人員の充実はもとより、政治家の認識と国民の理解が不可欠である。

 安倍政権が目指す「日本版NSC(国家安全保障会議)」設置構想は、国会での集団的自衛権行使問題を含め論議をトコトン深め、超党派の賛同を得た上で進められるべきことではないか。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら