メディア・マスコミ
NHKのテレビ60年記念ドラマ「メイドインジャパン」の制作に協力して感じた「記者の原点」
試写会にて筆者撮影

 NHKがテレビ60年記念ドラマ「メイドインジャパン」(井上由美子氏脚本)を制作し、1月26日から3週連続で放映する。日本を代表する大手電機メーカーが倒産寸前の絶体絶命のピンチに陥り、極秘に選ばれた社員7人が倒産回避に向けて奔走するストーリーである。

 舞台は「タクミ電機」という架空の会社だ。メインバンクから融資の打ち切りを宣告され、「余命3ヵ月」となったなか、創業者会長が極秘にしかも社外に再建戦略室を新設。そこに、社内では決して主流派ではない、一癖も二癖もある7人が召集されてくる。室長には、かつてやり手のテレビの営業部長だった人物が左遷された形で就任する。それを主演の唐沢寿明氏が演じる。

 多くの読者がご存じのようにソニーやシャープ、パナソニックは大赤字が続き、会社存亡の危機にある。こうした状況下において時宜を得たテーマと言えるだろう。すでにNHKは番組宣伝を放映しており、それを見たある家電メーカーの社員は「これって、うちの会社?」と思ったという。NHKも「過去の悲劇でも、未来への警鐘でもなく、現在進行形のドラマ」と説明している。

なぜ「メイドインジャパン」は競争力を失ってしまったのか

 筆者は第一話の試写会に参加したが、ドラマのテーマのひとつが「エンジニア」や「技術」であるようにも感じた。「生み出すために生きてきた」のキャッチコピーは、エンジニアの本能のようなものを示している。

 ドラマでは倒産回避に向けて動く7人の前に立ちはだかるのが、元社員でリストラされたリチウムイオン電池のエンジニアだ。高橋克実氏が演じている。寝る暇も惜しんで開発した技術を死なせたくなかったエンジニアは、中国の新興メーカーに移り、そこから世界に討って出るために新しい電池を開発する。

 一方、古巣も起死回生のために大手自動車メーカーに新型リチウムイオン電池の売り込みを図っていたが、その元社員のもっていた技術を活用し、中国メーカーが同じような製品を半値で売り込んでくる、という場面がある。

「技術流出」の問題も描くことで、人や情報が瞬時に世界を巡るグローバルな時代に「技術は誰のものか」を問うている。NHKはドラマ制作に当たり、日中の企業関係者100人に取材したという。その中には海を渡ったエンジニアたちも含まれている。約1000人のエキストラが参加した壮大なロケも敢行した。

 リアリティがあった。電機や自動車産業で新興国が台頭している理由のひとつに、日本人エンジニアの活用がある。定年や希望退職で辞めた技術者が海を渡って活躍している。日本政府は、こうした動きを技術流出として問題視し、この10年の間に7回も不正競争防止法を改正、設計データなどの営業機密を第三者に渡さなくてもコピーするだけで刑事罰を適用できるようにした。

 しかし、いくら法規制を強めても、エンジニアの頭や心の中にあるものまでを取り締まることはできない。海外にわたったエンジニアたちは、古巣を見返してやろうと、心が燃え上がっているケースもある。家庭もあるし、生活もある。自分の技術を評価してくれるところがあれば、そこで働きたいと思うのは当然だろう。

 結局は、リストラのし過ぎで、エンジニアに仕事の場を与えられなかった経営者の方に問題があるから「メイドインジャパン」は競争力を失ってしまったのではないか。そう感じながらその場面を見てしまった。もうひとつのキャッチコピー「生みだす国が死んでいく」という言葉には、エンジニアたちの活躍の場がなくなっているという意味も含まれているのではないか。

 最近取材した大手自動車メーカーの副社長は「エンジニアが独りよがりと思われるくらいに自分のほれ込む分野に没頭しないと、新しい技術は生まれてこないし、イノベーションも誕生しない。エンジニア自身に自分の技術の取捨選択を迫るような会社に未来はない。取捨選択は経営者の仕事だ」と語った。ドラマに登場する高橋克実氏演じるエンジニアのことを思い出した。

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