佐藤優 インテリジェンス・レポート
「アルジェリアにおける日本人等人質事件」

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.006より
【はじめに】
今回はアルジェリアにおけるイスラム過激派による天然ガス関連施設の占拠と日本人を含む人質事件について扱います。まず、この事件で亡くなった人質の方に深く哀悼の意表明します。日本のインテリジェンス能力を強化することが、この種の事件を防ぐ上でも重要と信じています。

【目次】
―第1部― インテリジェンス・レポート
 ■分析メモ(No.12)「アルジェリアにおける日本人等人質事件」
 ■分析メモ(No.13)「森喜朗元首相が語った北方領土三島返還論の意味」
―第2部― 読書ノート
 ■山内昌之 『民族と国家 イスラム史の視角から』
 ■浜矩子 『新・国富論 グローバル経済の教科書』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 佐藤優さんの今後の予定

分析メモ(No.12)「アルジェリアにおける日本人等人質事件」

【コメント】
1―(2)
ガス関連施設に勤務する日本人の事情を、事前のインテリジェンス活動によってテロ集団が入手していたことを示唆する報道もある。

英BBCはアルジェリアで取材中の仏メディアの記者の話として、「武装グループは(天然ガス関連施設内で)外国人、日本人がいる場所や、部屋番号まで正確に把握していた」と説明。武装グループが警備が厳重な施設に入り込み、広大で複雑な施設内で迷わずに動いていたことから、内通者がいたのは間違いないとの見方が従業員に出ていたと伝えた>(1月22日『朝日新聞』朝刊)。

1960年代からアルジェリアで事業を展開している「日揮」は、地域事情にもっとも通暁した企業で、当然、テロ対策のための情報収集、分析も行っている。

今回の事件で、テロ組織側に「日揮」を上回るインテリジェンス能力、特に内部協力者を育成するヒュミント(人間を通じたインテリジェンス工作)能力があったことを示唆している。

2―(1)
イスラム過激派が引き起こすテロに対しては、テロリスト側と取り引きするというシナリオはない。今回、テロリスト側は、フランスがアルジェリアの隣国マリ北部で行っているイスラム過激派の拠点に対する空爆の停止を人質解放の条件としたが、このような取り引きにフランスが乗れば、それを報道やインターネット情報で知ったアフガニスタン、パキスタン、イエメン、インドネシアなどのイスラム過激派が同様の事件を引き起こすリスクが高まる。

人命に最大限の配慮をしつつ、武力攻撃によって、テロリストを無害化し、人質を解放するしか方策がなかった。

2―(2)
フランスは、マリにおけるテロリスト掃討作戦を強化していた。日本ではほとんど報じられていないが、現地時間の1月15日夕刻にフランス軍が地上作戦を始めた。空爆と異なり、テロリストに対する全面戦争が開始されたことを意味する(本件に関し、ロシアのメディアがまとまった報道を行っている。1月16日の「レンタ・ル」の報道を参考までにロシア語から翻訳し、別添する)。その結果、焦燥感を抱いたイスラム過激派が以前から立てていたイナメナスの天然ガス関連施設へのテロ攻撃を決行したものとみられる。・・・(略)

分析メモ(No.13)「森喜朗元首相が語った北方領土三島返還論の意味」

〔PHOTO〕gettyimages

【事実関係】
1月9日、テレビ番組に出演した森喜朗元首相は、北方領土問題に関し、国後島と択捉島の間に国境線を引き、歯舞群島、色丹島、国後島の三島を日本領とし、択捉島をロシア領とする「引き分け」案を述べた。

参考:<国後、択捉で線引き 森氏

森喜朗元首相は9日夜、BSフジの番組で、北方領土問題の段階的解決策について、国後、択捉両島間に線を引き、国後、色丹、歯舞を日本、択捉をロシアとする案を披露した。ロシアのプーチン大統領が「引き分け」と語っていたことを踏まえ、「単純に線を引けばこれが一番いい」と述べた。森氏は来月、安倍晋三首相の特使として訪露、プーチン氏と会談する予定>(1月10日、MSN産経ニュース)

【コメント】
1.
北方四島に対する日本の主権が確認されるならば、返還の時期、態様、条件については柔軟に対処するというのが、北方領土問題に関する1991年10月以降の日本政府の基本的立場である。その後、日本政府がロシア政府に対して、「四島一括返還」(返還とは潜在主権とともに施政権も返還するという意味)を要求したことは、文字通り一度もない。

2.
客年12月26日に安倍晋三内閣が成立した。その4日後の同月30日、テレビ番組で、安倍首相は「四島一括返還が基本的な考え方」明言した。そのためロシア側は、日本の自民党新政権が北方領土問題に関するハードルを一方的に上げたのではないかという懸念を持ち、さまざまなチャネルを用いて情報収集を行っていた。

3―(1)
その事情を考慮し、ロシア側の信任の厚い森喜朗元首相は、「四島一括返還」が日本政府の基本的立場でなく、安倍新政権が北方領土問題に関するハードルを上げているのではないことを示すために、意図的に1月9日のテレビ出演の際に三島返還に言及した。森氏は、安倍首相を含む政府関係者とは、事前に一切打ち合わせることなく、この発言を行った。