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みんなで考えようこの国の未来 なぜ彼らは日本を「捨てた」のか海外に移住した日本の若者たち

「あたし、ちょっと海外に行ってくる」

「いいねぇ。で、いつ帰ってくるの?」

「分かんない。とりあえず、3年かな」

 海外に生活の拠点を移す日本の若者が急増している。なぜいま日本脱出なのか。

この国に希望はあるのか

『ご報告 このたび、私は日本を離れ、オーストラリアに移り住むことにしました。ついては、携帯を解約しますので、以後のご連絡先は・・・・・・』

 これは30歳の本誌記者の携帯電話に、高校時代の同級生から突然、送られてきたメールだ。

 日本が、少子高齢化の時代に入ったと言われて久しい。若者の人口は減少の一途を辿り、経済を支える労働力も減っている。働いて稼ぐ人間が減れば、ものを買って消費する人間も減る。構造的な不況のなかで、景気が根本的に回復していく見込みは立っていない。

 ところがいま、日本の若者たちは次々と海外に生活の場を移し、現地の外国企業に就職しているという。

 外務省の海外在留邦人数調査統計(平成24年速報版・平成23年10月1日現在)によると、海外に生活の本拠を移した日本人(永住者)数は前年調査から約1万5000人増の39万9907人。

 また、3ヵ月以上海外に長期滞在する日本人の総数は78万2650人で、1年間で2万3862人増加している。平成23年の調査では前年からわずか540人増だったのと比較すれば、海外に出る日本人が急増していることが分かるだろう。

 何を隠そう、本誌記者の中学・高校の同窓生だけでも、すでに5人が、この2年間に日本を離れ、生活の拠点を海外に移している。

 そのひとり、冒頭のメールの送り主である30歳独身女性は、福島第一原発事故後の'11年4月、単身オーストラリアに移住した。

 そろばんの有段者で、十数桁の掛け算も暗算でこなす天才肌の彼女は、名門私立大学の法学部を卒業後、社会人生活を経て、ロースクール(法科大学院)に進学。'10年に卒業したばかりだった。

 法曹界入りを目前にしたエリートが、なぜすべてを捨てて移住を選んだのか。メールで理由を問うた。

『法律を勉強してきたのは国民の生命や財産を守る仕事につきたいと思ったから。でも原発事故への対応を見ていると、そもそもこの国は、それらを大切にしていない。全部、虚しくなった』

 両親や兄弟にも海外に出ようと呼びかけたが、反応は鈍かったという。『それなら仕方ない。あの人たちが選んだ道だから』

『日本を捨てていくのかと非難する人もいるけど、それも仕方ない。私はもう日本を信じられない』
 彼女のなかにあるのは、日本社会への激しい不信感だ。だが取材を進めると、若者が日本を離れる理由には、さまざまなものがあることが分かってきた。

 長期滞在する邦人数が世界第1位(24万1910人)の米国。'11年秋、高野ゆきさん(30歳・仮名)は夫(30歳)とともに、自動車産業で知られる都市・デトロイトに近いミシガン州の大学町に移り住んだ。

 白百合女子大学在学中に知り合った夫は東京大学を卒業、大手証券会社に就職。ゆきさん自身も大手銀行に入行、25歳での結婚後も仕事を続けた。1年後には5000万円台のマンションを夫のローンで購入。人並み以上の幸せに、生活への不満は何ひとつなかった。

「でも、子供はどうしようかなどと将来設計を夫と考えるようになって気がついたんです。『どうもこの先、日本にいても人生で起こることは見えているね』と」

 エリートのレールに乗った瞬間、夫は会社での出世競争、妻には家事・子育てという日本的な将来像が現実味を持って迫ってきた。老後の暮らしまで想像できてしまう社会の無味乾燥さに、脱力したという。

「なんてつまらない国なんだろう。私たちはもっといろんな経験をしたいし、将来、生まれる子供にも自由に生きてほしいと思った」

 夫は米国への社費留学に応募。F-1と呼ばれる学生ビザを取得し、MBAの資格取得を目指して大学のビジネス・スクールに通うこととなった。卒業後は1年間の実地訓練(プラクティカル・トレーニング)での滞在を申請でき、その間に現地企業に転職して就労ビザ(H‐1B)の取得を目指すことができる。だがこの計画はもちろん、夫婦だけの秘密だ。

 明確に成功への野心を持って海外進出する若者もいる。長期滞在邦人数が世界第2位(13万8829人)の中国。その首都・北京で7年前、わずか26歳で起業したのが、北京ログラス有限公司総経理(CEO)の山本達郎氏(32歳)だ。

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