二宮清純レポート 栗山巧(西武ライオンズ外野手)ピッチャーに一番嫌われる男

 同級生には中村剛也、松田宣浩、今江敏晃ら各チームの「顔」が居並ぶ。野球先進地帯・神戸に生まれ、若獅子ひしめく西武でプロの洗礼を浴びた。「オレは天才じゃない」。その発見が飛躍を生んだ。今年30歳になる。男が生き延びた理由を解く。

死球をめぐるドラマ

 歌舞伎役者の市川海老蔵ばりの端正なマスクが苦痛にゆがんだのは昨年8月21日のことだ。

 西武ドーム。0対1と1点ビハインドで迎えた8回裏1死三塁、栗山巧の左前腕部を福岡ソフトバンクの中継ぎエース・森福允彦のシュートが直撃した。

「当たった瞬間、〝これは折れたな〟と思いましたね。グシャッとボールがめり込んでくる感じがありましたから・・・・・・」

 一悶着あったのは、この直後だ。キャッチャーの細川亨が「スイングや!」と叫んだのだ。

 ちなみに細川と栗山は西武の同期入団組。細川は自由獲得枠、栗山はドラフト4巡目だった。年齢は細川が4つ上。

「別に〝スイング!〟とアピールするのは野球やってるんやからいいと思うんです。ただ、あまりにもしつこかった。

 僕にまで〝振ったやないか!?〟と言うんで〝おいおい、それを判断するのはアンタやない。審判の仕事やろう〟と。こっちもちょっと熱くなってしまって(笑)」

 死球の代償は高くついた。左尺骨骨折でリーグ歴代2位の390試合連続フルイニング出場記録は途切れ、チームも2位に転落した。

 所沢市内の病院に担ぎ込まれた栗山は、その時点では全治不明と診断され、残りのシーズンはもちろん、クライマックスシリーズにも出場することができなかった。

「このケガを通して、あらためて金本(知憲)さんはスゴイと思いましたね」

 栗山が口にしたのは元阪神・金本の9年前のケガだ。死球を受けて左手首を骨折していた金本は、あろうことか翌日のゲームにもスタメン出場し、右手一本で2安打を放ってみせたのだ。

「実は僕、倒れている時にそのシーンがパッと脳裡をよぎったんです。とりあえず、このままランナーで行こうかと。

 しかし、とても腕を動かせるような状態ではなかった。〝アカン、これは無理や〟と。記録が途切れたのは残念でしたけど、いろんな人に支えてもらって、ここまで記録を伸ばすことができた。その意味では〝支えてくれた皆さん、ありがとう〟という気持ちの方が強かったですね」