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SONYリストラ技術者は「辞めたら夢が大きくなった」
ベンチャーで電気自動車開発中

試作車に乗る田中氏(左)と岩出氏。二人はソニー時代、同じプロジェクトチームに在籍したこともある

「最後は家内も納得してくれましたが、2ヵ月くらいバトルがありました。子どもは、上が大学受験、下が中1で、一番おカネがかかる時期なんです。家内には、『そういう時期に会社辞めてどうするの』と反対されました。家族としては当然の反応なのかな、と思います。ソニーではそれなりのポジションにいて、1500万円弱くらいの年収はありましたからね。それを棒に振るのは、反対するのが当然かもしれません。そこは押し切るしかなくて、『辞めさせてくれ』と話をしました」(田中氏)

 田中栄一氏(写真左)、49歳。25年のソニー勤務を「卒業」し、昨年11月に退職した。ソニーでは、プロ向けのオーディオ機器の開発、車載オーディオシステムの開発などに携わっていた。

 田中氏の隣は、岩出勝彦氏、48歳。同じくソニーに22年にわたって在籍し、昨年10月末に早期退職制度によって退職した。岩出氏も高級カーオーディオの開発チームで、ユニットリーダーを務めたベテランだ。

 二人は知人の誘いにより、昨年末から京都のベンチャー企業「グリーンロードモータース」(GLM)に参加、スポーツタイプの電気自動車開発に携わっている。

ソニー技術者たちの憂鬱

 岩出氏は、ソニーのリストラ策の内情をこう話す。

「会社側から人員を削減したいという要請があり、退職金額の加算など、早期退職プログラムが示されました。今回、提示されたプログラムを見て、今後受け取る給与との差し引きも考えて早期退職に応じたのです。

京都の工場で、自動車をチェック。GLM社は京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー発の企業

 たとえ昨年辞めなかったとしても、1年か2年先延ばしするだけのことで、定年まで会社にいるのは難しいだろうとは感じていました。まもなく、役職定年も導入されます。いまのソニーは、定年まで働ける会社ではなくなった気がします」

 ソニーでは'97年から早期退職プログラムを実施し、'03年に2万人、'05年に1万人、 '08年にも1万6000人の削減策を打ち出した。昨年は、グループ全体の6%にあたる1万人規模のリストラをすると発表、管理職を3割削減するとして、該当者に面談などを行ったという。「期限までに退職に応じれば、退職金を数千万円加算する」などの条件がつけられていた。

 両氏が参加したGLM社は、'10年4月に京都で創業した。現在手がけているのが、京都で開発され、12年前まで市販されていた2人乗りオープンカー「トミーカイラZZ」を、電気自動車として復活させること。トミーカイラを販売していた会社は'03年に倒産したが、当時のデザイナーなどを集め、電気自動車として設計し直した。4月から予約の受け付けを始め、すべて手作りで月産10台。標準販売価格は800万円だ。

「ガソリンエンジンと違い、電気モーターは初期のトルクが大きくて、しかもトルクバンドが広いという特徴があります。つまり、ドン! と加速するのにぴったりなんです」(岩出氏)

「電気自動車は、各部品をすり合わせる技術がいらなくなるので、モーターがあって、車体があって、他に必要な部品を持ってくれば水平分業でできてしまう。しかし、それだけではつまらないので、GLMのような生まれたばかりの小さな会社では大衆に迎合しない尖がったものを作ろうとしているんです」(田中氏)

 岩出、田中両氏は、主にカーオーディオなどの電装部分、さらにエンジン音の再生などを手がけている。同社の小間裕康社長も、「お二人は、大手メーカーでできなかったことをベンチャーで実現できればと参加してくださいました。プロジェクトの最初の種を蒔くというところを考えてくださっていると感じています。それほどご自分の技術に自信を持っておられるのだと思います」と話す。

 岩出氏は、古巣・ソニーの苦境についてこう語っている。

「サムスンなどの韓国メーカーと比べると、技術面では日本メーカーのほうが、かろうじて優位にあると思います。しかし、サムスンはトップの力が強いし、マネジャークラスが裁量権を持っていて、スピーディーに動いていました。ソニーと液晶パネルの合弁会社を作っていましたが、それを解消するとき、人材をかなり引き抜かれています。

 ソニーでも以前は、何もないところからああでもない、こうでもないと侃々諤々議論をして、イチから商品を企画していました。ところが最近は、予算の制約でそれが難しくなってきている。100のアイデアのうち形になるのはひとつか二つで、(予算を握る)管理屋が幅をきかすようになってきた。そういった閉塞感をずっと感じていました」

 作っている人が夢を見られない製品を、使う側が楽しめるはずがない。ソニーの社是「自由闊達にして愉快なる理想工場」はいま、このガレージメーカーで現実のものになっている。

「フライデー」2013年1月25日号より

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