ドイツ
目標達成まで残り8年で99万5500台!?
電気自動車の普及に挑むメルケル首相とドイツの不思議な国民性

〔PHOTO〕gettyimages

 ドイツは、2020年までに100万台の電気自動車を普及させるという目標を掲げている。この計画ができたのは3年前の、脱原発など夢物語だったころのことで、つまり、電力の安価、かつ、安定的な供給が前提となっていた。

 ところが今では、電力に関する議論はドイツ全土において、カチカチと時を刻む時限爆弾のようにスリリングなものになっている。だから昨年10月、メルケル首相、経済技術相、交通建設相、産業界の代表などが集って、電気自動車についての話し合いが持たれたとき、この100万台計画にブレーキがかかるかと思ったのだが、結局、変更はなかった。

「私たちにはまだ8年の月日が残されている」

 現在、ドイツで登録されている電気自動車はたったの4500台で、ガソリンとディーゼル車4300万台の、わずか1万分の1強といったところだ。しかも、一昨年登録された電気自動車のうちの半数は、メーカーやディーラー自らが登録したものだそうで、あとの半分のうちの9割は公用車。これは私も時々見かけるが、横腹に「私は100%電気で走っています」などと書かれた小さな可愛い車だ。役所などのクリーンイメージに一役買っている。

 それに続く客(?)が、メーカーが宣伝のために格安の値段で提供して、乗ってもらっている有名人たち。もちろん彼らは、他の車も所有しているだろうから、CO2の軽減に役立っているとはいえない。

 そして、最後が一般購買客だが、その数は微小で、はっきり言って、ドイツの一般道路には電気自動車はまだ普及していないといってもよいだろう。この閑散とした状況が、あと8年で100万台に? そんなことを信じている人は、おそらく誰もいないだろう。

 ところがメルケル首相は言う。

 「この目標を達成するのは容易なことではない。しかし、だからといって諦めようというのは間違いだ。私たちにはまだ8年の月日が残されている」

 脱原発を決めたときもそうだったが、メルケル首相は無理難題に挑戦するのが好きなようだ。それに対して自動車業界は、「60万台はいけるかもしれないが、100万台はちょっと・・・」と戸惑い気味。しかし、これさえもちょっと嘘くさい。

 一方、緑の党はいつものごとく異なった主張をしている。電気自動車の目標数を100万台ではなく、200万台にすべきだと。無理難題ではなく、不可能を並べ立てるのがこの党の特徴だ。とはいえ、40年掛かって、とうとう不可能と思われていた脱原発を国是にしてしまったのだから、侮るわけにはいかない。

 それにしても、しょっちゅうこういう非現実的な理想を掲げる党が、インテリのあいだで一定の支持を得ているドイツという国は、なんと面白い国だろうといつも思う。技術で他国を席巻したいという熱意と、正しい行動に対する熱烈な憧れと、それに伴う自己愛。そして、そのあとでしばしば陥るダブルスタンダード。

 その証拠に、CO2の軽減、環境破壊防止と叫びながら、なりふり構わず中国で車を売っているのはドイツ人だし、アメリカでも、去年のドイツ車の売上は史上最高だった。売っているのは電気自動車ではない。

 そんなわけで、環境保護はドイツの国境の内側だけの話なのか、それとも世界単位の話なのかが分からない。ドイツ人の国民性はまことに興味深く、観察していて飽きない。

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