読書人の雑誌『本』
「DNA医学の最先端―自分の細胞で病気を治す」著:大野典也
スピーゲルマン博士の語り継いだもの─RNA遺伝子自己複製の発見

 今日、ディーエヌエー(DNA)という言葉は日本語として、すでに広く社会に定着しています。そして遺伝子という意味から、伝統や気風といった文化的な表現にも用いられるようになって来ています。

 他方、生命体の担い手としてDNAと共に重要なアールエヌエー(RNA)の方はいまだに分子生物学の分野の専門用語として留まっていて、日本語化を果たせていません。

 しかし、近い将来、RNAの生命現象における働きは、大ブレークする日がくるのではないか、すでにそんな予兆があります。ここではDNAとRNAが共に、一部の研究者の研究課題であった時代のお話をしましょう。

 一九五三年ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を明らかにすると、研究の中心はDNAの情報がどのようにしてタンパク質に翻訳されるのかに移りました。そして、DNAとタンパク質との間を結んでいる物質がRNAであることが突き止められ、メッセンジャーRNAと命名されます。さらに驚くべきことにRNAを遺伝子としているウイルスの存在が発見されました。

 最初に発見されたのは、植物に感染するウイルスでしたが、その後多くの研究者を喜ばせる大発見が一九六一年に報告されます。それは大腸菌に感染し、増殖するRNAウイルスです。これにより研究時間の大幅な短縮が可能になりました。植物ウイルスの増殖研究は年単位のプロジェクトですが、大腸菌を用いることで、分単位で研究することが可能になったのです。

 この時期日本では、京都大学のウイルス研究所で渡邊格先生のグループが大腸菌に感染するRNAウイルスの分離を精力的に試みていました。その結果RNAウイルス・キューベーター(Qβ)の分離に成功します。このQβがのちに世紀の大発見に繫がります。

 
◆ 内容紹介
日米両国で自家細胞(自分の細胞)を使ったがん免疫療法のトップランナーとして注目を集める著者が、DNA医学の考え方、従来の治療常識を覆す、新しいがん免疫療法、自分の多能性幹細胞を使った治療の最前線をわかりやすく解説。本書を読むと、ヒトの体の不思議、そして最新の医学の世界がよくわかる!