規制改革の国際比較テストが、官僚を制し、アベノミクス成功の鍵を握る
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 アベノミクスがいよいよ具体的に動き始めた。安倍晋三内閣は事業規模で総額20.2兆円に上る緊急経済対策を閣議決定した。日銀には2%物価安定目標の設定を求め、日銀も受け入れる方向だ。

 焦点の1つが目標の達成時期だった。日銀は「中長期で達成する」といった表現で逃げ切ろうとしていたが、安倍は私が聞き手を務めた東京新聞のインタビュー(1月11日付)で「ある期間を決めて経済財政諮問会議において、それをチェックし日銀側に説明責任を負わせるという考え方もある」と答えている。

 これは、たとえば1年とか2年とか期限を決めて、どれくらい目標が達成できたのか、それともできなかったのかを、日銀総裁もメンバーになっている諮問会議の場で検証しようという考え方だ。もしも達成できていなければ「なぜ達成できないのか」「次に達成するために何をするのか」を、その場で総裁に問いただす枠組みになる。

 当初は日銀と協定(アコード)を結んで、そこに2%目標ととともに達成時期を書き込む案が有力とみられていた。それに比べると「時期を決めて諮問会議で検証する」案は一見、後退のように見える。だが案外、日銀には厳しい案かもしれない。

 文書に書けば、一種の「政府と日銀の合意」になるから、達成できなければ合意違反は明白である。当然、説明責任が発生する。ただ文書は1回作ってしまえば、それまでだ。約束した達成時期が来るまで、日銀はほおっかむりしようと思えば、できないことはない。

 これに対して、諮問会議は政府の会議であり、議長は安倍自身だ。議題設定はもちろん日程管理も主導権は政府側が握っている。日銀総裁はあくまで呼ばれて参加しているにすぎない。すると「諮問会議で検証する」とはすなわち、いつどういう形で日銀に説明させるかについて、政府側が主導権を持って決められる形になる。

 たとえば「2年後までに達成する」と決めたとしても、政府側が「どうもパフォーマンスが良くないから、臨時的に中間レビューしよう」と考えて、1年後にチェックすることだって不可能ではない。つまり達成時期とは別に、政府が機動的に日銀のパフォーマンスを監視できる。

 もともと経済は生き物だ。揺れ動く経済の実態に即して諮問会議が臨機応変に対応していくのは、少しもおかしな話ではない。安倍は達成時期について、日本経済新聞のインタビュー(1月11日付)では「長期はありえない。長期というのは目標でも何でもない」と語っている。日銀が「中長期」なんて言っても容認しないだろう。このあたり、最終決着がどうなるか注目したい。

国際比較の重要性

 もう一つ、私がインタビューで密かに関心を持っていたのは、金融政策とか原発といった大玉の課題ではない。規制改革の「国際先端テスト」だった。これは自民党が昨年末の総選挙で公約に盛り込んだアイデアだ。だが地味な話で、これまでまったくといっていいほど注目されなかった。

 テストは国内と海外の規制のあり方を比較して、日本の規制を国際標準に合わせていく狙いがある。公約は「日本を世界でもっとも企業が活動しやすい国にする」という高い目標を掲げていた。

 たしかに「たかが国際比較テストをしただけで、そんなに簡単に規制改革が進むか」という反論はあるだろう。しかし、テストの結果、日本の規制がどれくらい世界とかけ離れているのかいないのか、があきらかになるのは重要だ。それで企業や消費者が政府に要求していく根拠になるからだ。

 規制改革は重要である一方、とても複雑で細かい話である。いわゆる「規制」がいったい何件くらいあるのか、数千なのか数万なのかさえ、素人にはよく分からない。ジャーナリストだって、ある規制がどんな理由でどういう風に運用されているのか、深く取材してみなければ問題点を報じられない。専門的に毎日のように法令集とにらめっこしている官僚の独壇場である。

 そんな規制を主だったものだけでも国際比較することによって、普通の国民がインターネットをクリックすれば「ああ、日本はこんなに異常な国だったのか」と分かるようになれば、大変な進歩であると思う。実態があきらかになって初めて、改善するにはどうしたら良いか、を考え始めることが可能になるからだ。

 これまで規制改革の歩みが遅かったとすれば、問題が複雑で、なかなか一般の理解が進まなかったという面もある。私のように政府の問題点を報じる側からみると、ぜひ国際比較して、問題点をすっきりくっきり見せてほしいと思う。それがあれば記事を書きやすいのはもちろんだ。

 安倍は国際先端テストについて、私が東京新聞のインタビューで「既得権益を変えていくテコになると思う」と水を向けると「そこが自民党が変わったかどうかというリトマス試験紙になる」と語った。まさにその通りだ。

 国際比較は官僚が何か新しい政策を立案するときの常套手段でもある。これは元財務官寮でコラムの同僚筆者でもある高橋洋一に教えてもらったのだが、官僚の世界には「海を渡り、川を上る」という言葉があるそうだ。

「海を渡る」というのは、海外の事情を調べる。「川を上る」というのは、過去の事情をさかのぼって調べるという意味だ。つまり新政策を立案するには、まず同じ問題について海外事情を調べ、次に過去の対応策をチェックしてから作業に入るのだ。官僚たちは、まさに時空をかけめぐって知恵を絞っている。

 そういう官僚の発想からみると、国際比較によって、日本のとんでもない時代遅れがあきらかになるのは「何か対応しなければまずい」という話になる。「海を渡ってみたら世界はこんな風になっていた」のに、日本が取り残されているという事態は、心ある官僚であれば「我、なにごとかなさん」という気になるのではないか。

 規制改革とは違うが、たとえば経済協力開発機構(OECD)が農業保護の度合いを国際比較する際に使うPSE(生産者支持推定量)という指標がある。農産物の内外価格差と生産量、補助金などから弾き出す数字である。

 農業粗生産額に対するPSEの比率でみると、日本の農業保護水準は米国、中国、欧州連合(EU)、OECD平均をはるかに上回り、同じく農業保護を求める声が強い韓国をもしのいでいる。そういう実態が分かって、初めて農業の自由化をどうするか、という話が普通の人々にも理解されるようになる。だから国際比較は重要である。

 もっとも今回の緊急経済対策に、こんな話は出てこない。イノベーション(技術革新)を強化するための官民ファンドやらが花盛りだ。中には「耐震・環境性能を有する良質な不動産形成のための官民ファンド創設」(国土交通省、環境省)などという項目もある。

 いったい「良質な不動産形成」になんで、わざわざ官民ファンドを作らなければいけないのか、私にはさっぱり理解できない。こんな話は民間に任せれば十分ではないか。

 始まったばかりのアベノミクスは肝心要の金融緩和について、しっかり対応する構えだから、財政支出とあいまって景気の下支え効果は確実にあるだろう。株高円安も進むはずだ。11日の東証平均株価は10800円台を回復し、円は1ドル=90円に迫った。この調子だと、7月の参院選までに株価は13000円前後、円は1ドル=100円に迫ってもおかしくない(ここは、まったく当てにならないヤマカンの話である)。

 ただ景気が良くなってきたときこそ、無駄遣いにも目を光らせなければならないのはもちろんだ。(文中敬称略)
 

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