「人材育成」という言葉は、ビジネス界だけのキーワードではない

 サッカー界の“冬の風物詩"と言えば、元旦に行われる天皇杯の決勝戦であり、新年早々に開催される高校選手権でしょう。

 47都道府県から出場校が集うこの大会は、規模の大きさや質の高い運営をみても、世界有数のイベントと言っていいでしょう。このところオリンピック誘致のニュースを目にしますが、スポーツ大会の開催能力を国際的にアピールするならば、高校選手権をみてもらえればいいと思うぐらいです。

 選手権は一発勝負のトーナメントです。準決勝までは、同点なら即PK戦で決着をつける。チームとしての地力はもちろん、最後まで戦える意思の強さを持った集団でなければ、勝ち上がることはできません。分かりやすく言えば、「勝ちきるサッカー」が求められます。

 こういう話をすると、「いやいや、良いサッカーをして、なおかつ勝利を求めるべきだろう」という指摘が聞こえてきそうです。私が言いたいのは、「良いサッカーを目ざす」ことを、負けたときの理由にするべきではないということです。

 高校選手権に出場する選手となれば、おそらくほとんどがJリーガーを目ざしていることでしょう。23歳以下の代表選手として、オリンピックに出場したい。日本代表の一員として、ワールドカップで活躍したい、といった夢を描く高校生も多いと思います。そうやって高い目標を掲げるからこそ、高校生たちは技術、戦術、体力といったものを磨いていく。

 私自身の指導経験を踏まえれば、「良いサッカー」を目ざしているだけでは、厳しい練習を続けていくモチベーションがどこかで枯れてしまいます。「勝利をつかむ」ことは、何よりも持続力のあるモチベーションなのです。

 高校選手権という舞台の先にあるオリンピックやワールドカップも、決勝トーナメントは一発勝負です。勝ちきらなければ頂点に立つことはできません。たとえ「良いサッカー」をしても、負ければ得るものは減ってしまう。だからこそ、高校選手権でも結果にこだわるべきだと私は考えます。

勝負への飽くなきこだわり

 Jリーグが誕生した当初は、高校サッカーの存在意義が問われることもありました。しかし、日本代表まで登り詰める選手は、依然として高校サッカー出身が多い。一方、Jリーグの下部組織で育った選手が多く選出されてきた20歳以下の代表チームは、3大会連続で世界大会の出場を逃している。この事実は見逃せません。

 アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表でも、高校選手権のOBたちが中核を成しています。遠藤保仁、本田圭佑、川島永嗣といった選手は、いずれも今大会を経験しています。長谷部誠、長友佑都、中村憲剛らも、高校選手権出場を逃したものの高校サッカーで揉まれた選手たちです。

 彼らに共通するのは、勝負への飽くなきこだわりです。逆境に追い詰められてもなお、自分の力を振り絞ってチームに貢献できる逞しさがある。その土台となったのが、高校選手権の頂点を目ざした3年間だったのでしょう。

 なでしこジャパンこと日本女子代表は、なぜ世界の頂点に立つことができたのか? 佐々木則夫監督率いるチームは、“ジャパン・オリジナル"とも言うべきサッカーを確立しました。

 欧米のチームに体格では劣るけれど、技術なら負けない。個人の俊敏さでも負けない。足りないものを数えるのではなく、自分たちにあるものを輝かせることで、彼女たちは世界のトップへ登り詰めたのです。

 男子サッカーも、なでしこジャパンと軌を一にするべきでしょう。

 ヨーロッパや南米のサッカー先進国と同じことをやっても、彼らに追いつくことはできません。日本の特徴、日本人の特性を生かすことに、世界で活躍するカギがあるでしょう。

 高校生年代であれば、高校選手権という素晴らしい大会をさらに発展させることに力を注ぐ。同時に、Jリーグの下部組織の育成方法をいま一度見つめてみる。そういった地道な作業の積み重ねが、将来的な成功をもたらすと私は思います。

 高校生年代のプレーヤーは、サッカー界の未来を担う宝です。「人材育成」という言葉は、ビジネス界だけのキーワードではありません。スポーツ界にも間違いなく当てはまるのです。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら