ドイツ
3つの家庭に招かれて感じたこの国の問題 ~アルバニア見聞記 その2
ティラナ市街の湖、 市民の憩いの場となっている

その1はこちらをご覧ください。

 アルバニアのロマは、ひどく差別されている。ジプシーという言葉を止めても、実態は何も変わらない。誰も雇ってくれないから、しかたなくゴミを集めるか、道端で物を売るか、あるいは、物乞いをして暮らしているが、なぜ、あれで子供を養って生活していけるのかが私にはわからない。

 出生届を出さないことが多いので、戸籍もなく、社会に組み込まれていないロマがたくさんいる。そうなると、学校にも行けないし、社会保障ももらえず、法的な保護も望めない。自分の国に不法滞在しているようなものだ。

 推定では、アルバニアには9万人から15万人のロマがいる。全人口の4%といわれ、そうだとすると、12万人弱。無視するには多すぎる。

 ナチ時代はユダヤ人と同じく迫害され、絶滅させられそうになった。あるいは、殺されないまでも、「劣等人種をこれ以上増やさない」という理由で、多くが去勢された。

 つまり、れっきとした「ホロコースト」の犠牲者だったのに、戦後、力のないロマは何の賠償も取れなかった。ユダヤ人が強力なロビーを形成して、ドイツ人にできる限りの償いをさせたのとは対照的だ。そして、今でも東欧、バルカン全体で差別されている。アルバニアのテレビでは、ロマをあからさまにバカにする番組も平気で流れているという。

 11年の2月には、首都ティラナでロマの襲撃事件が起こった。彼らは劣悪な住環境で暮らしており、そのバラックの集落が焼打ちに遭い、120人が追放された。この事件の後、欧米の駐アルバニア大使、欧州安全保障協力機構などが、何もしないアルバニア政府に対して強い非難の声明を出した。

Kは何を共有して暮らしているのか?

 ティラナではKの家に招かれた。Kはスイス人で、4年前からアルバニアに住んでいる。50歳なかばの大男で、スイスでは国鉄に勤めていたが、嫌気がさして早期退職。孤児院でボランティアをするつもりでやってきたものの、孤児院側の受け入れ態勢が整わず、ロマの子供センターに行ってくれないかと打診された。

 そのとき、グループで転属を拒否したボランティアが2名いたが、どちらもアルバニア人だったという。他は皆、外国人で、何の抵抗もなくロマの子どもセンターを手伝った。「ロマを一番差別しているのはアルバニア人だよ」とKは言う。

K家の人々

 Kはその後、センターに通って来ていたロマの少女の母親と親しくなり、結婚してしまった。30過ぎの美人で、浅黒く、ワイルドな感じが、オペラの『カルメン』を思い出させた。Kは今では子供もできて、呑気にボランティアをしながら家族4人で暮らしている。

 ただ、私にはそれがうまく想像できない。ドイツ人と日本人のように、国力や教育程度や文化程度が似ていても、メンタリティーの違いを感じることは多い。ところが私の目の前には、あの豊かで清潔で、自然までが整然としている冷たいスイスという国に育った人間と、ゴミだらけで雑然とした貧しいアルバニア出身の、笑顔だけが宝石のように美しいロマのカップルがいる。

 これはカルチャーショックどころか、ほとんどシヴィリゼーションショックだ。何を共有して暮らしているのか? そんな私の疑問をよそに、Kは世間の常識も価値観も平然と無視したまま、自然体を保っている。

 フラットは質素だったが、平均的なアルバニア人の住まいに比べれば、上等なのだという。聞いてみたら、一家の1ヵ月の生活費は、家賃もすべて込みで400ユーロ。切り詰めれば、300ユーロでも暮らしていけるそうだ。

 「だから、多くのアルバニア人は、外国からの送金で暮らしているよ。家族か親戚がちょっと送金してくれれば、働く必要はない」とKは言う。そういう彼は、今は、スイスの貯金を切り崩して暮らしている。いずれ年金が出れば、それが少額でも、ここで暮らすには十分だろうという。

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