家族の防災対策として高まる安否確認の重要性
2011年3月11日。首都圏で働くビジネスマンにとって、この日の混乱は忘れることのできない記憶だ。しかし、来たるべき首都直下型地震に備え、もっとも参考にすべきは、1月17日で丸18年を迎える阪神・淡路大震災だということはあまり知られていない。

989万人もの帰宅困難者はいつ帰れるのか

 2011年3月11日の東日本大震災を経験し、現在、近い将来に発生が予測される首都直下型地震や南海トラフ地震の被害想定および対策の見直しが急ピッチで進められている。東京都では今年4月より、「東京都帰宅困難者対策条例」が施行される。

 これは3.11の際、首都圏では約515万人もの帰宅困難者を生んでしまった反省から、企業に3日分の食料や水を備蓄させ、従業員を社内にとどまらせるよう定めたものだ。ちなみに内閣府と東京都などでつくる「帰宅困難者等対策協議会」では、首都直下型地震で最大989万人の帰宅困難者が発生すると予測している。

 「『帰るな!』『帰すな!』という震災の大原則を盛り込んだという点では評価します。しかし首都圏が被災した場合、本当に3日分の備蓄で十分なのかという点には疑問を感じています

「ビジネスマンの方々には、どうか救命講習の受講をお願いしたい。震災時、救急車はすぐには来ません。止血や心肺蘇生の方法やAEDの使い方を学んでおくだけで、救える命は格段に増えるのです」と渡辺氏。

 そう語るのは、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏だ。しばしば目にする「帰宅難民」という言葉は、渡辺氏がその概念を整理し使い始めた。3.11以前より、震災時には混乱を避けるためにも職場にとどまることの重要性を、著書やメディア、講演を通じて呼びかけてきた。東京都の条例化はその趣旨が理解された形だが、まだまだ危機感が足りないとその内容に不満気だ。

 「1月17日で丸18年を迎える阪神・淡路大震災を思い出してみてください。この時は鉄道の復旧に各社約1ヵ月~5ヵ月を要しました。東西に伸びる市内を、阪神、阪急、JRがシンプルに横並びで走っている神戸でさえ、それくらいかかったのです。

 一方、東京はどうでしょう。鉄道は地上にも地下にもたくさんの路線があって、それぞれが相互に乗り入れている。さらにはその上を、老朽化した首都高が走っているなど、あらゆる交通機関が網の目のように張り巡らされているわけです。

 これらが一瞬にして壊れた時、わずか3日で回復するでしょうか? 帰宅困難者は鉄道の復旧との相関関係にありますから、4日目になれば帰れるようになるとは到底思えません」(渡辺氏、以下同)

 確かに、3.11の東京は東日本大震災の被災地ではない。電車にも線路にも直接的なダメージはなかったため、ほとんどの鉄道が遅くとも翌日には運行を再開した。それでも500万人以上が帰宅困難者となった状況を考えると、「989万人」「3日間」という想定は、十分でないようにも感じる。

 「そして神戸の街が炎に包まれたように、東京の街でも火災が発生します。とくに恐ろしいのは、環状六号線(山手通り)と環状七号線との間に密集する木造住宅の火災です。ひとたび出火すれば一気に燃え広がり、都心と郊外の間にリング状の火の海が出現します。

 つまり東日本大震災の時にように歩いて郊外まで帰ろうとしても、目の前に火の海が立ちはだかることになります。当然、それ以上前には進めませんから、引き返す人も出るでしょう。しかし、その状況を知らない人々が次々と後ろから押し寄せてきたら・・・。これでもみなさんは、まだ帰りたいと思いますか?

 3.11ではなまじ歩いて帰れてしまった。災害時に帰宅できる、という間違った「負の経験則」を持ってしまったビジネスマンが多い。加えて津波の恐ろしさがクローズアップされましたが、都市の震災で本当に怖いのは『炎の津波』です。今後、われわれが警戒すべき地震は、阪神・淡路大震災に代表される都市型地震だということに、まずは頭を切り替えていただきたいと思います

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