スポーツ

新春特別研究「マラソンでメダル」が見たいのに……なぜ日本人には「箱根駅伝までの選手」が多いのか

2013年01月11日(金) フライデー
friday

 こう語る櫛部は、恩師の瀬古利彦同様、「箱根は通過点、世界で戦える選手を育てたい」という理想を追う指導者だ。扉ページの順天堂大・今井、早大・竹澤、東海大・佐藤、そして昨年卒業した〝山の神〟東洋大・柏原ら箱根のスター選手たちのように、学生時代に日本代表としてユニバーシアードや世界ジュニアに出場し、将来は五輪代表になれるような可能性をもった大エースがいれば、その選手に憧れて入りたいと思う選手が増え、自然と競争原理が働き、チーム力も上がる・・・・・・そういう循環を生み出したい、と櫛部は話す。

ポルシェよりプリウス

 ところが、である。

 少子化の中で潰れる大学が現れた昨今、生き残りのための施策の一つとして箱根駅伝を意識して強化を図る大学があるのも事実。昨年までの箱根の主役・柏原の活躍で東洋大の受験生が増えた通り、受験シーズン直前の箱根駅伝は大学にとって格好の宣伝になるからだ。箱根に出場して名前を売り、優秀な選手を集め、シード権を得て、ゆくゆくは優勝・・・・・・大学側にそんな思惑があるのは想像に難くない。多くの箱根の指導者たちが、自身に求められるものがその辺りの事情も含めての強化であることは重々感じている。そんななかで櫛部は「いまの学生陸上界はあまりにも箱根ありきになっている」と指摘する。

「持久力を付けることばかり考えて長い距離を走らせ、スピードが増すトラックでのトレーニングを軽視しています。だから基本的に皆、長距離仕様の選手になる。1㎞3分ペースで行けば箱根なら区間賞も狙えますから。一方、世界に目を向けると、トップレベルはトラック競技で鍛えることでどんどん高速化している現状があります」(櫛部氏)

 今年、箱根駅伝に出場した大学の駅伝部指導者も、個人の能力が伸びない事情を明かす。

「もし仮に、箱根駅伝がなくなれば、有望な選手にオーダーメードの指導が可能になり、選手の能力をより引き出すことはできるでしょう。でも、現状では箱根を目指すしかない。団体戦ですから、露骨な特別扱いはできないのです」

 これでは、将来性豊かな若き才能に、五輪で戦える指導をすることは難しい。箱根駅伝は1920年、日本マラソンの父・金栗四三により「世界に通用するランナーを育成したい」という理念のもと創設されたもの。学校経営というビジネスに利用される側面は避けられない現実だが、その理念を無視している大学も少なくない。

「スターはいらない」という考えを持つ指導者が、選手の将来より大学の広告効果のほうに重きを置けば、学生選手権などのトラック競技を軽視し、一年中、箱根で走るための偏ったトレーニングばかりを行う。箱根の1区間は4区を除いてすべて20km以上。その距離を走り続けることで選手は皆、同じような〝箱根仕様〟になっていく。例えるなら、圧倒的な馬力を誇るポルシェを1台作るより、燃費がよく壊れにくいプリウスを10台作ることを優先し、事実、それで箱根を制した大学も存在する。

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