昨年の夏山遭難が過去最高を記録
中高年、若者の山ブームを背景に初心者増える[山の事故]

昨年夏も登山者でにぎわった富士山=12年6月30日

 山岳遭難が右肩上がりで増加している。警察庁によると、昨年の夏山(7~8月)の遭難事故は発生件数、遭難者数ともに過去最高を更新した。背景には、中高年者や山ガールブームによって登山者そのものが増加した一方、登山の技術や自然の脅威を学ばないまま山を目指す初心者が後を絶たないことが考えられる。

 警察庁によると、昨年の夏山の遭難事故発生件数は552件で前年に比べて66件増え、遭難者数は676人で106人増と、いずれも過去最高となった。一方、死者・行方不明者は36人で、昨年より25人減った。

 中高年(40歳以上)に絞ってみると、遭難者数469人(対前年比31人増)で、死者・行方不明者は32人(同33人減)だった。

 死者・行方不明者については、いずれも大幅に減少した。その理由は明らかではないが、夏山の事故は天候に左右されることが多く、昨年が減少したからといって、今年以降減少傾向が続くとは限らない側面があるという。

 また、見逃してはならないデータがある。39歳以下の青年・少年層の事故が増えたのだ。細かく年齢層別に見ると、15歳未満53人(対前年比35人増)▽15~19歳29人(同19人増)▽20~24歳30人(同6人増)▽25~29歳33人(同6人増)▽30~34歳31人(同3人増)▽35~39歳31人(同6人増)――で全ての世代で増加した。

 全遭難者に占める青年・少年層の割合は、30・6%。11年は23・2%だから、この世代の事故が急激に増加したことが分かる。このうち死者は4人だった。

 このところ、体力が衰え始めた中高年者の登山愛好者が増加するとともに事故も増えていたことが問題になっていたが、それに加えて若い世代の事故も増加傾向にあり、山岳関係者は「緊急事態」と受け止めている。

 日本山岳ガイド協会(会長・谷垣禎一自民党前総裁)の検定員を務める登山家、太田昭彦さんは「中高年者、山ガール、山ボーイを含めて、登山の初心者がこぞって山に入ってくるようになった」と語る。

山岳での救急講習を行う太田昭彦ガイド

 確かに夏の北アルプスに出かけると、中高年者だけでなく、若者の姿が目立つようになった。神奈川県の丹沢、東京都の奥多摩のような身近な山岳でも、おしゃれなデザインの登山着に身を包んだ若い男女のカップルやグループでかっ歩している。

 なぜ若者が山を目指すようになったのか。太田さんは「山岳を舞台にした人気漫画や、女性タレントが海外の高峰に登頂するバラエティー番組の影響ではないか」と推測する。

 若者がハイキングや登山といったアウトドアに親しむことについては、山岳関係者の中には「山に若者が戻ってきた」と喜ぶ向きもある。

山岳部・会の所属は少数派

 かつては山で見かける若者と言えば、大学山岳部が代表的存在だった。働く若者も地域や職場の山岳会に所属していた。だが、今の若者には山岳部出身者はほとんどおらず、山岳会に所属する者もごくわずかだ。

 太田さんは「そこが問題」と言う。「登山の技術を学ばず、自然の脅威に対する危機感もないままに山に登っている」と指摘する。さらに「中高年者と違い、若い人は体力がある。日本の山岳は整備された登山道が多く、晴れた日に北アルプスをたまたま歩けてしまうと、さらに危険な場所に踏み込み、事故に遭う危険性が高まる」と警告する。

 それでは、山を目指す初心者の若者や中高年者が登山の技術をどこでだれに学べばいいのだろうか。

 山岳会に所属するのが一般的だが、山岳関係の団体や登山道具店が開催する講習会、山岳旅行を手がけるツアー会社の座学や実技講習に参加することが考えられる。

 そして遭難事故を減らし、安全登山を実現する切り札は「山岳ガイドの存在」と見る。「山で大切なことは経験を積むことです。経験を積んだガイドが同行すれば事故は大幅に減ります。また、ガイドの講座を受けて技術を学んでほしい」と力説する。

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