公共事業や補助金ばらまきだけでは日本経済は再生しない。建設業者から農家に転じた業者が語る「自助努力を支える構造改革こそがイノベーションを生む」

 安倍内閣がまとめる2012年度補正予算案で、公共事業に国が約2兆円を支出する方針が固まりつつある。すでに多くのメディアが報じた。自民党が掲げる「国土強靭化計画」の下、国土交通省が実施する橋梁や道路、港湾などの整備に充てられる計画で、農水省が行う公共工事にも予算を充当させるという。

 公共事業の拡大は、景気の底上げ策のひとつである。金融緩和策を受けての円安と相まって、株式市場も敏感に反応し、1月4日の「大発会」でも日経平均株価の終値は、「大納会」の終値から292円93銭上昇して10688円を記録、東日本大震災前の水準にまで回復した。

選挙対策で土建業者を救済するための公共事業は必要ない

 筆者は景気が回復することを否定するつもりはない。しかし、景気対策も含めた経済政策には短期的な視点と長期的な視点の両方が必要である。公共投資拡大や金融緩和は短期的な対策にしか過ぎず、日本経済を本当に強靭化していくには、市場原理を利かせた構造改革は欠かせないはずだ。それを忘れて、「安倍相場」に浮かれていては、将来に禍根を残すだろう。

鈴鹿政秀氏

 公共事業で潤うはずの土建関係者の中にも、構造改革を伴わない公共事業の拡大を否定的に捉える人もいる。その一人が、滋賀県大津市の鈴鹿政秀氏(40)だ。

「地方に道路を建設するなどの公共事業はそんなに必要な時代ではないと思います。雇用のために公共事業が必要というのであれば、別の新しいビジネスを起こす方に力を入れた方がいい。農業もやり方次第では成長産業になります」と鈴鹿氏は語る。

 鈴鹿氏は5年前まで地元で道路や河川の修繕などを行う土建業を営んでいたが、廃業した。鈴鹿氏の父が社長だった鈴鹿建設は、業績がピークだった20年ほど前には従業員30人を抱え、売上高は5億円近くあった。しかし、公共事業の削減で仕事が激減、「県や市が発注する工事が大半でしたが、廃業する直前は仕事量が全盛期の10分の1になっていました。従業員の方にも辞めてもらって、最後は私と父の2人だけでした」と鈴鹿氏は振り返る。

 それでも鈴鹿氏は「安全に問題がある古い橋や道路を修繕することは必要かもしれませんが、選挙対策で土建業者を救済するための公共事業はもう必要ありません。田舎で人があまり通らないこんなところに道路を造って何の意味があるのかと、常に疑問抱きながら仕事をしていました」と言う。

 鈴鹿氏は土建業を廃業、周囲の耕作地放棄地の存在に注目し、それを活用して米農家に転じた。もともと土建業の合間に農業はしていたので自作地は80アール(8反)ほどあった。耕作地放棄地を借りて稲作に取り組み始め、5年前から専業農家に転じた。屋号は「びわこ農業」にした。

 鈴鹿氏が稲作をしている「上田上(かみたなかみ)地区」は清流が豊富で、寒暖の差が激しいため、1300年以上も前の天智天皇の時代から美味しい米ができたと言われる。その近くで収穫される「たなかみ米」は昭和天皇への献上米としても知られる。

 しかし、周囲を見渡すと耕作放棄地が増え、しかも兼業農家は補助金を頼りにした守りの経営しかしていない。そこで「美味しく安心安全のお米を復活させたら、少々高くてもお客さんに評価されるのではないか」と考えたことが転身のきっかけになった。

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